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0-3 家族会議

 

 クレアの忠告から半年後のことだった。

 それは唐突で前触れもなくやって来た。


 いや、ついにその時が訪れたと言うべきだろうか。

 事前に知っていた俺は心の準備が出来ていた。

 父親から呼び出されて家族全員が会議室に集まった。


 母親のメディスン。


 長女、サーシェ。


 長男、セトリック。


 次男、タケヤキ。


 三男、オオトイ。


 五男、ルーデウス。


 次女、クレア。


 そして俺。縦長の十五人は座れる幅のあるテーブルが中央にあり、各地兄弟たちは配置する。

 そして部屋の四隅にはメイドが配置している構図だ。


 こうして家族全員が一箇所に集まることは珍しい。

 いつも父親は忙しく全員が揃うことはなかったが、この日は違う。

 空気感も雰囲気も何もかも違う。張り詰めたオーラが部屋全体に伝わる。

 他の兄弟は今から何が起こるのか、知っているのか知らないのか。


 どちらにせよ、何か重大なことが行われることを察していた。

 家族が集まってしばらくのこと、父親は遅れて部屋に入って来た。

 そのまま誕生日席に腰を下ろし、足を組んで肘をつき頬杖を決める。

 ドンッと効果音が流れるのが聞こえた気がした。


 全員が父に向けて頭を下げる。


 それほど父、バウンドの存在は威厳を放っていた。


「さて。皆揃っているな。ではこれより緊急家族会議を開催する」


 父、バウンドの号令によりその場にいた全員が一気に緊張を高めた。


「クックックッ。今日、皆に集まってもらったのは他でもない。魔王候補の振り分けについてだ」


 来た! と、思わず俺は背筋が伸びる。


 たった半年の猶予しかなかったが、俺に出来ることは全部やった。

 まず、父親に気に入られる為にお茶を運んだり、魔王室の部屋の掃除といった雑用を始めた。

 そんなことメイドにやらせればいいと父親にあしらわれたが、父のためにしてあげたいんですと無理くり雑用を買って出た。


 訓練は兄弟の誰よりも励み、父の眼の前では頑張りを見せつけた。

 魔王候補に入る為にこの半年で実力を付けた。

 更に敵である勇者に関する知識も勉強して弱点など勉学に励んだ。

 これだけのことをやったんだ。まず、魔王候補に入ることは確実だ。


「さて、魔王である俺様の後を継げるのは一人だけ。つまり我が息子たちから魔王になれるのは一人。他の四人は候補に外れてもらう訳だが、今回は一人だけ候補から外れてもらうことになる」


 ピクリと男兄弟たちに緊張が走る。


「お父様。その振り分けですが、どうやって決めるのでしょうか?」


 疑問を投げかけるのは長女、サーシェだ。


「その為の会議だ。お前らで好きなように意見を出し合ってくれ。最終的なジャッジは俺様が決めさせてもらう」


 まさか父親の独断ではなく話し合いの場が設けられるとは。

 当然といえば当然だ。これは会議。話し合いの場だ。


「候補から外れるべき兄弟はアクトでいいんじゃないか?」


 意見を出したのは長男、セトリックだ。

 兄弟の中で最も喧嘩の相手になるセトリックは俺のことをよく思っていない。

 つまり長男的には俺が候補から外れて欲しいと心から思っている。


「アクトは魔王になる器ではない。自分勝手で自己中心的。とてもじゃないけど兄弟の中で最も不要だと思う」


「待って。セトリックお兄ちゃん。アクトお兄ちゃんは不器用なだけで慣れたら良い人だよ。戦闘力も強いし、なんて言ったって凄い力を秘めている訳で……」と、クレアは俺のフォローに入った。


「クレア。何故、アクトの肩を持つ?」


「そうだ。アクトを庇ったところで何も意味がないぞ」


 と、他の兄弟たちはクレアに批判をする。


「別にそんなんじゃないけど……」


 と、クレアは兄弟の圧に押されて身を縮めてしまう。


 話し合いは俺の批判を中心に盛り上がりを見せる。

 兄弟に一人一人にスポットが当たるが、やはり俺の批判する内容が大きいものだった。


 家族会議は進行して時間にすると五時間に及んだ。

 無理もない。家族を一人魔王候補から外すとなれば簡単に決めることはできない。

 それに決めたら最後、その兄弟は魔王城から去らなければならないのだから。


 そして、その決断は迫った。


「クックックッ。なるほど、なるほど。我が息子たちの意見はしかと受け止めた。さて、候補から外れてもらう者を決める前にその者の今後だが、本日中にこの魔王城から去ってもらう。だが、悔いることはない。外でその名を上げてみろ。この俺様に追放したことを後悔させるような活躍を見せてみろ。例え、追放されても我が息子であることは変わらん」


 父はそのように言うが、期待はずれの時点でその息子は終わりだ。


 どう足掻いても魔王になれない。その辺に出る悪役と同類だ。

 まぁ、俺は父親に対する信頼が厚い。例え、兄弟たちがなんと言おうと父親はきっと俺を魔王候補と認めてくれている。そう信じていた。


「さて。その候補から外れてもらう我が息子だが……」


 バウントの次の一言で候補が決まる。

 先程の緊張から更に緊張が走る。


 さて。追放されるのは誰だろうか。


 俺の中で考えられるのは兄弟の下の五男、ルーデウスだろうか。

 兄弟の中では力が弱く魔王の器ではない。


 それか三男のオオトイか次男のタケヤキも考えられる。

 特別強い訳ではなく目立たないが、候補としては申し訳程度の実力だ。


 いや、あえて長男のセトリックも考えられる。

 長男だと偉そうにしているが、実際口だけで実力はない。

 それはそれで面白い。


 さぁ、誰だ。魔王候補から外れる愚か者は。

 決まった瞬間、腹を抱えて笑ってやる。


 その絶望に染まった顔を俺に拝ませてくれ。


「アクトレータ。お前だ。魔王候補から外れてもらう。同時に本日中に魔王城から去れ!」


 ん? 今、アクトレータと言ったのか? 


 聞き間違い? いや、確かにバウントの口からアクトレータと言った。

 じゃ、何故だ。俺は父親から絶大な信頼を得ていたはずだろう。


 なのに、何故俺が魔王候補から外れる。あり得ないだろう。

 他の兄弟を笑ってやろうと開いた口がそのまま固まってしまう。


「な、な、何故ですか。お父様! 俺はあんたのお気に入りのはずだろ? 何で俺が候補から外れるんだ。おかしいだろう!」


 思わず、俺は椅子から立ち上がりバウンドに講義をする。

 その必死さから口調が早口になり、声量も高くなっていた。


「クックックッ。俺様が誰のお気に入りだって? 別に俺様は一度もアクトのことがお気に入りだと思ったことはないぞ」


 父親に媚を売っていた程度では目に止まらなかったと言うことだろうか。


 じゃ、この半年間の行いはなんだったのだ。

 まさか無駄なことだったとは。


 どうして俺が候補から外れる。例え、お気に入りじゃなかったとしても候補から外れる理由にはならない。


「どうして俺なんだ? なぁ? 他にも候補がいるだろう! セトリックとかタケヤキとかオオトイとかルーデウスとか。どうして! どうして俺なんだよ」


「醜いぞ。アクトレータ。お前は魔王の器として相応わしくない。不要だ。さっさとこの魔王城から去れ。話は以上だ。会議を終了する」


 バウンドはそれだけ言い残して部屋から出ていく。

 理由は特に語られないまま、俺は呆然としていた。


 俺が追放? 魔王城から出ていかなければならない? 何故だ。何故、俺が?

 ありえないだろ。クソ。クソ。クソ。


「ざまぁ」


「早く出て行け」


「落ちこぼれが!」


「目障りなんだよ」


 男兄弟から罵声を浴びされながら部屋を出て行く。


 残った母親のメディスン、長女のサーシェ、次女のクレアは席に座ったまま呆然とした。特に何かを言う訳でもなく気まずそうに下を向いていた。


 その場にいるのが息苦しくなった俺は部屋を出た。

 何もかももう……終わりだ。俺の追放は確定した。


最後までご愛読ありがとうございます。

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