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0-2 兄弟


 三歳になった。


 物心がつき、足腰もしっかりしたことでようやく人間らしく成長していた。

 そして、最近になってようやく両親の名前を知る。


 父親はバウンド・ボルゾイ、母親はメディスン・ボルゾイだ。

 俺はアクトレータと名付けられた。

 アクトレータ・ボルゾイ。それが俺の名前だった。

 ボルゾイ家の四男である。


 兄弟、両親からは正式名称では言わずにアクトと略して呼ぶことが多い。

 母親のメディスンの腹の中には弟か妹になる人物が宿っている。

 大家族になることは間違いない。


 何故、ここまで兄弟が多いのかと言えば両親の性欲が強いのは勿論のことだが、他にも理由はある。

 それは時期、魔王候補に育てるべく多くの子供を出産している。


 魔王になれるのは男だけなので男の子は大切にされているのだ。

 日本でも貴族の息子が重宝されるのはよく耳にする。それと同じ理由なのだろうか。

 俺は魔王候補として厳しい訓練が始まろうとしていた。

 



 気が付けば俺は十歳の誕生日を迎えていた。


 時が経つのは早い。時間の流れと共に兄弟は更に増えていた。

 魔王の子供は全部で七人いる。つまり七人兄弟になっていた。

 今後も増えるか分からないが、今はこれで形になっていた。

 時期、魔王に育てるべく、数が多ければいいという考えなんだろう。


 俺はそのうち五番目の子供として生まれた。


 長女、長男、次男、三男、四男(俺)、五男、次女という兄弟だ。

 魔王には男と相場が決まっているようで魔王候補としては五人の兄弟になる訳だ。


 だが、魔王になるには一枠しかない。

 ということは兄弟の中でライバル関係が生まれる。


 物心がつけば魔王になるために特訓が始まる。

 俺も兄弟と同様、父親直々に訓練を受ける。


 それは毎日厳しい訓練だ。

 自分より何倍もある大岩を押したり、剣術や体術の訓練を毎日のようにしごかれる日々だ。


 兄弟の誰もが魔王になることを夢見ている。強さこそが正義という美学があるらしく訓練では誰も弱音を吐くことはなかった。


 勿論、俺も兄弟たちと同様に訓練に参加している。辛いとは思う時もあるが、難なくやりこなす日々を過ごしていた。


 ただ、兄弟が七人もいると呼び方も困る。

 兄さん、兄貴なんか呼べば、他の兄弟と被るので歳の差関係なく名前呼びが一般的だ。


 長女、サーシェ・ボルゾイ。十四歳。


 長男、セトリック・ボルゾイ。十三歳


 次男、タケヤキ・ボルゾイ。十二歳。


 三男、オオトイ・ボルゾイ。十一歳。


 五男、ルーデウス・ボルゾイ。九歳。


 次女、クレア・ボルゾイ。七歳。


 兄弟仲は良くも悪くも……といった感じだが、俺はどうも他の兄弟たちとはうまく馴染めていなかった。

 元々人と群れることが苦手な俺は兄弟の中でもひねくれ者だ。

 よく言い争いになり、兄弟喧嘩の原因を作ることもある。


 セトリックが俺の肩にぶつかった時だ。


「おう。悪いな。アクト」


 軽い感じで言う長男に俺はバカにされた感じがしたのだ。


「おい。今、わざとぶつかっただろう?」


「はぁ? 何を言って……」


 次の瞬間、俺は殴りかかっていた。


 そこからは殴り合いの喧嘩で周りのメイドたち総出で俺たちを引き離そうと必死だった。


「アクト! あんたはどうしていつもそうなの!」


 メディスンに正座させられて俺は怒られた。


 早く説教が終わらないかとそっぽを向いていたことで更に怒られることとなる。


「はぁ。どうしてあなたはいつもそうなのよ。同じ兄弟なんだから仲良くしなきゃダメでしょ。何度言ったら分かるのよ」


 美人の母親だったが、歳も取り怒ってばかりで少しシワが増えて見えた気がした。

 それでも俺は喧嘩を辞めなかった。メディスンに反抗したいからではない。


 強くなりたかった。誰よりも見下されることなく自分を強く見て欲しかった。

 強さこそ正義。その美学は俺の心に火をつけていた。

 例え、兄弟が相手でも俺は強く見られたい。


 そんなひねくれが他の兄弟にも距離を置かれるようになっていく。

 だが、一人だけ俺が距離を置いても構わず近く兄弟がいた。


 それが次女のクレアだ。


「アクトお兄ちゃん!」


 ひょこっと扉から顔を覗かせながらクレアは言う。

 俺はクレアに振り返ることなくボーッと窓の外を眺めていた。


「クレア。何か用かよ?」


「用がなきゃ来ちゃダメなの?」


「別に」


「またお兄ちゃんたちと喧嘩したんだって?」


「あぁ。ちょっとな」


「兄弟なんだから仲良くしなきゃダメだよ? そんなことばかりしていると嫌われても知らないよ?」


「別に仲良くする気もねぇし、嫌われてもどうでもいい。女のお前には分からないかもしれないが、俺たち男は魔王の座が掛かっているんだ。馴れ合うと情がわくだろ」


 突き放すように俺はクレアに言い放つ。


「確かにそうかもしれないけど、兄弟っていいものだと思うけどな?」


 兄弟の良さなんて俺には分からない。前世でも一人っ子だった訳で特に魅力を感じたことがない。兄弟なんて俺にとっては邪魔な存在でしかならなかった。


 だから聞いてみた。


「なんでそう言い切れる? 目的のために邪魔だし、何かあれば喧嘩の原因を作るし良いことなんて何もないだろう。俺たちは悪党だ。悪党に兄弟の絆なんて必要ないだろう」


「アクトお兄ちゃんはまだ分かっていないようだね。困った時は助けになると思うし、兄弟がいるからこそ同じ苦難を乗り越えられる。私は兄弟がいっぱい居て良かったと思うけど」


「それはお前が末っ子で甘やかされているだけだからだろうが。生意気言うな。ガキが!」


 俺の発言にクレアは少しムッとした反応を見せたが、それ以上突っかかることはなかった。おそらくまた喧嘩の原因になると思い、あえて引いたのかもしれない。


 その辺の読みは末っ子ながらにして出来るようだ。


「アクトお兄ちゃん。私は女で末っ子だけど、誰よりも兄弟の事情を把握しているつもり。これは忠告として聞いて欲しいんだけど、近々お父様から振り分けがあると思うから覚悟した方がいいよ」


「振り分け? なんだよ。それ」


「魔王候補の振り分け。五人のお兄ちゃんの中で一人、魔王の見込みがないと判断された人は魔王城から追放される」


「なんでお前がそんなことを知っているんだよ」


「お父様の会話を聞いたの。今のうちにお父様に媚を売った方がいいよ。魔王城に居たければ。じゃ、おやすみ。アクトお兄ちゃん」


 クレアは扉を閉めて自室へ戻った。


 魔王城から追放だと?


 実の子供を追い出すって言うのか。そんなバカな話があっていいのか?

 いや、父親は魔王だ。実の息子だろうと平気で追い出すだろう。


 確かにいずれ候補を絞るためには振り分けに必要だ。

 俺はどうだ? 魔王になれる器になっているのか?

 他の兄弟たちと何が違うのか。


「チッ。気に入らねぇな」


 俺にとって命運を分ける出来事になることは間違いない。

 それまでに対策を打つ必要がある。

 俺は必ず魔王になってやるんだ。

 最強の悪役こそ俺の辿り着く先だ。


最後までご愛読ありがとうございます。

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