0−1 転生先は魔王の息子
「……っ!」
目を醒ますと、白髪の若い女性が俺をのぞき込んでいた。
美少女、いや美人のお姉さんといった感じだろう。
綺麗な人だ。ずっと見ていると好きになってしまうほど魅力を感じる人だった。
誰だろうか……?
「可愛い。よちよち」
まるで俺を子供扱い……いや、赤ん坊扱いするような言い方だ。
俺はこんな可愛くない。お世辞もいいところだ。
「どれ。俺様にも見せてくれ」
その隣には頭に角を二本生やした強面の男性が不敵な笑みを俺に向けていた。
悪魔のようで圧だけで人を殺めてしまうのではないかと思うほど、恐ろしい人物である。人間ではないのは間違いない。
だって背中に黒い翼が生えている。それにお尻から尾が生えている。尾の先端には逆ハート型でウネウネと動いている。
コスプレ用の付け物とは考えづらい。これは本物か?
初対面ではとにかく刺激が強い。
「クックックッ」
こ、殺させる。
俺はそう直感した。
逃げなければ。そう思った俺だったが、身体がうまく動かない。
指先や腕は動くが上半身が全く起き上がらない。
これではあの悪魔から逃げることが出来ない。
いきなり詰みだった。
「ようやく生まれてくれたか。我が息子よ」
悪魔が言った。
まさか。まさか。まさか。
目はうっすらしか見えないが、自分の手をよく見ると豆粒のように小さい。
なんだ? これじゃまるで赤ん坊ではないか。
いや、俺は生まれたての赤ん坊のようだ。しかもよりにもよってこの悪魔が俺の父親なんて。俺の異世界生活は一体どうなる?
一ヶ月の月日が流れた。
この一ヶ月で色々と情報が飲み込めた。
俺は事実、異世界に転生した。
転生したのは新生児の男の子として生まれた訳だ。
母親はとても美しく胸も大きい。まさに完璧な美人さんだ。
母親は良いとして問題は父親だ。
悪魔とも言えるあの父親はどうやら魔王らしい。
そう、勇者がラスボスとして討伐すべき対象であるあの魔王だ。
そして俺が生まれたのはここ、魔王城だ。
つまり俺は魔王の息子に転生してしまったらしい。
周りにいる人間の会話で知る事が出来た。
なるほど。あの女神。俺を悪役にする為に魔王の息子にするとはやられた。
これなら俺は生まれながらにして悪役になってしまったという訳だ。
「オギャ、オギャ」
一ヶ月ではまだ喋ることはできない。
だが、周りの人間の言葉は分かる。
聞き耳を立てて見ると魔王の息子というだけで城内の人間は俺に敬意を払う。
母親を中心に王様のようになんでもしてくれるのだ。
人の温もりを感じたことがない俺にとって初めての感覚だ。
まぁ、悪くねぇ。
美人のママさんのおっぱいを吸えるだけでも今の俺は恵まれていると言える。
まぁ、体が成長していないせいか、それとも相手が母親であるせいか、全く興奮はしなかったが……。
更に半年の月日が流れた。
この頃になると俺もハイハイぐらいは出来るようになった。
移動ができるこの感覚はやはり素晴らしいことだ。
「もう。眼を放すとすぐどこか行っちゃうの」
「元気で良いじゃないか。俺様の息子であるならこうでなくちゃな。クックックッ」
「元気過ぎるのもどうかと思うけど」
両親はそんな風に言う。
魔王城はとにかく広い。
一部屋でどれだけ面積があるのだろうか。
三十階建てで部屋数は百? 二百? いや、千以上あるだろうか。
とにかく豪邸だ。さすが悪役で一番規模の大きい城と言える。
城の周りは断崖絶壁で周囲だけ何故か年中夜のように暗く、雷がゴロゴロ鳴っている。
まるで魔王城に辿り着くのを阻止するような配置だ。
ここを攻めてくる勇者パーティーは苦労することだろう。
更にメイドの数も桁違いだ。違う顔が百人はいる。下手したらもっといるのではないか? 魔王ってそんなに権力があるのか?
俺は最上部の魔王の部屋から下の階で面倒を見てもらっている訳だ。
たまに勇者パーティーがこの魔王城に侵入して大きな爆音と奇声が飛び交うが、数時間もすれば収まる。
おそらく父親が返り討ちにしているのだろう。
実際に戦闘シーンを見ることはないが、魔王とはとんでもない化物で強い。
俺もいつかあのようになれるのだろうか。
昼か夜なのかも分からない空を見ようと思った俺は椅子によじ登り窓の外を見てギョッとした。
見知らぬ人物が魔王城の断崖絶壁を登ってきている。
新手の勇者だろうか? 五人組のパーティーだ。
「頑張れ! もう少しで頂上だ」
「ようやく辿り着ける。魔王城に! 絶対に魔王を倒すんだ!」
ご苦労なことでミスミスやられるとは知らずに頑張るなんてなんの意味があるのだろうか。
魔王が簡単にやられる訳ない。
俺の親父は最強だ。
どれ。どんな怖いもの知らずな野郎か、この眼で拝んでやるとするか。
少し椅子から身を乗り出した時だった。
不安定になった椅子がぐらつき、俺は椅子から重い後頭部から地面へ転げ落ちる。
「ンギャ!」
どしんと落ちた瞬間、悲鳴が聞こえた。
異変を感じ取った母親が慌てて駆け寄って俺を抱き上げた。
俺が笑顔を見せると安堵した顔になって胸をなでおろす。
「よかった。大丈夫そうね」
ちょっと失敗した程度だが、結構危ない落ち方をしたのだろう。
ただ、後頭部がズキズキする。
この程度の痛みは普段から味わってきたが、この体だと何倍も痛みが伝わる感じかした。
まぁ、血は出ていないようなのでたいしたことないだろう。
母親は注意深く俺の頭を見る。
傷でもあったら一大事と言わん表情をしている。
きっと傷でもあれば魔王の父親に怒られてしまうのだろうか。
それだったらちょっと申し訳ない。怒られるのは俺ではなく母親なのだから。
「念のため。大地に満ちる命の躍動、汝の傷を癒せ。治癒」
これって詠唱?
母親の手が淡く光った瞬間、一瞬で痛みが消えた。
「さぁ、これでもう大丈夫。母さん、実は昔、魔術師だったの。内緒だぞ? て、言っても分からないか」
魔術師? 魔王の嫁はそんな好条件の女を射止めることができるのか?
魔王すげぇ。
「フゥ。今日も勇者パーティーを蹴散らしてやったわ」
そこに父親である魔王が現れた。
「何かあったか?」
「ううん。なんでもない。お疲れ様。今日はどうだった?」
「ふん。たいしたことないわ。最近、手応えがなくてな」
「あら、そう。でも気を抜かないでね。油断すると足元すくわれるかもしれないから」
「俺様を誰だと思っている。魔王だぞ」
「そうね。あなたは最強の魔王だものね」
「クックックッ。おまえってやつは」
父親と母親は俺の前でチュッとキスをした。
見せつけてくれるじゃないか、お二人さん。
その後、俺を寝かしつけた後、二人は上の階の寝室へ消えた。
きっと今頃、愛を育んでいるのだろう。
全く羨ましいことで。ではなく元気なことで。
しかし、魔王の息子か。
それから俺は両親やメイドの会話に注意深く耳を傾ける生活が続く。
元の世界では聞き慣れない単語が多々感じられた。
特に国の名前、領土の名前、地名の名前。
剣や魔法。それに勇者と魔王。
異世界であることは実感してきた。
悪くねぇ。ちょっとワクワクしてきた。
よし。俺は悪党として異世界で暴れてやる。
誰もが恐れる存在になって恐怖を与えてやろうじゃないか。
悪役上等。なってやる。悪役ヒーローに。
二度と後悔しないように。全力で。
最後までご愛読ありがとうございます。
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