1−1 勇者パーティ襲撃
始まりの街。通称、勇者の旅立ちの地。
その名の通り、ここは勇者が旅立つ街と知られており、初代冒険者ギルドが設立されたとされる有名なスポットとしてその人気に拍車をかけていた。
観光客は勿論のこと、多くの勇者はここから旅立ったとされている。
ここから旅立った勇者は歴史的に名を残した者が多くおり、名誉あるギルドとして登録されていることでも有名だ。
街は勇者関連の店で多くを占めていた。
だが、そんな場所に不釣り合いな俺はゆらりと街をフラつく。
小汚い服装にボサボサ髪で不潔感が漂っていた。
本来であれば俺はここから始まるはずだったかもしれない。
だが、運の悪さや条件的にそのシナリオから沿うことはなかった。
転生先に失敗して挙げ句の果てに追放された俺がこれ以上、何かを求めたところで何も得ることはできない。だから俺は正義のヒーローにはなれないだろう。
いや、なるべきではないと言い換えるべきか。
主人公のような立ち位置に今後なる日なんて訪れない。
「ちっ。どいつもこいつも俺を避けるように歩きやがって。まぁ、そんなことよりもどれ、冒険者ギルドっていうのはあそこかぁ? 正義のオーラがヒシヒシと感じて来やがる」
進行方向にそびえ立つのは剣と矛がクロスされた銅像に正義感漂う大きな建物だ。
『初代冒険者ギルド〜英雄の始まり〜』と横看板が建物の上部に取り付けてある。
間違いない。ここがかの有名な初代冒険者ギルド。
多くの勇者を排出させた歴史を持つ名スポットだ。
ここまでの道のりは短いようで長かった。
これでようやく最初の目的を果たせる時が来た訳だ。
「クックックッ。これで俺は悪役として世間を賑わせることになる」
俺は冒険者ギルドで勇者登録をする目的で訪れた訳ではない。
理由は簡単。勇者をぶっ倒すことだ。
あの扉から出て来た最初の人物が俺の獲物に変わる。
さぁ、俺に呆気なくやられる不幸な人物は誰だ?
カランカランと押しドアが開かれて何人か冒険者ギルドから出てきた。
先頭に出たのは背中に剣を差した勇者と思われる男。爽やか系のイケメンでそのサイドには仲間と思われる人物が四人。五人組か。
間違いない。新米の勇者パーティーだ。
「さーて。暴れてやるぜ」
俺の目的。それは勇者パーティーを崩壊させること。
何故、そのようなことをするかって?
そんなこと決まっている。俺は悪役だからだ。それ以外に理由はない。
正義感溢れた主人公をぶっ飛ばすことに快感を得る。指の骨をゴキゴキ鳴らした。
「……? な、何者だ。貴様!」
俺の存在に気付いた勇者は背中の剣を構える。
仲間たちは警戒態勢だ。俺の殺気に一早く気付いたか。
「やられる前に教えといてやるぜ。俺の名前はアクトレータ・ボルゾイ。お前たちはここで全員終わりだ」
俺は首を搔き切る動作をしてみせる。
旅立ち早々、いきなり俺という悪役を前にした勇者パーティーは慌てふためいた。
勇者と言えど、初戦が俺だったのが運の尽き。
「ボ、ボルゾイ……だと? その名って確か……」
「リーダー。知っているんですか?」
「聞いたことがある。ボルゾイと言えば魔王の一族の名だ」
「魔王? じゃ、この子って魔王の実の息子?」
「間違いない。こいつは俺たちが倒すべき宿敵の手先だ」
初歩の街とは言え、流石にボルゾイの名は知っているらしい。
この名は好きになれない。魔王の名前を出すと癇に障る。
「確かに俺は魔王の息子に変わりないが、今は無関係だ。一般の敵として見てくれて構わないぜ」
「皆! 構えろ。所詮、一人だ。全員で戦えば勝てるはずだ」
「はい!」
リーダーの指示により勇者パーティーは俺に一点集中で攻撃を仕掛けた。
魔法や剣術など初心者が絵に描いたような攻撃が飛び交う。
「はあぁぁぁぁ!」
「これでもくらえ!」
「消え失せろ! 悪党!」
軽い。軽い。軽い。何だ? この緩い攻撃は。本当にお前ら仮にも勇者なのか? 話にならねぇじゃねぇか。
これで勇者と名乗っているのか疑問を浮かべる。
「な、何故だ。攻撃が全く当たらない。いや、当たっていることは間違いないのに攻撃が通らないだと?」
勇者メンバーは自分たちの攻撃が通じないことに動揺する。
実力の差は歴然だ。
この日のために俺はずっと鍛えてきたんだ。
勇者が悪党に恐怖で怯える姿を見る為にずっと。
「何だ? 練習相手にもならないじゃねぇか。オラァァァ!」
ゴッゴッゴッ!
「な、何が起こっている? 地震か?」
ドッドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
ガッガッガッ!
「ぐっ。うわあああぁぁぁ!」
勇者たちの情けない声と共に地面が崩れ落ち、足場が不安定になった直後、崩壊した。
立つことが出来なくなった勇者パーティーは次々と倒れる。
一瞬で戦意喪失だ。
少しは手応えあると思ったが、これでは勇者の名が廃るだろう。
「ちっ。つまんねぇな。勇者っていうのはたいしたことねぇのか?」
勇者に幻滅した矢先だ。一人、無傷のメンバーがいたことに意識を向けられる。
丸い球体のようなもので守られており、宙を浮いていたことで助かったようだ。
「おっと。一匹倒し損ねたか」
その人物は白髪の少女である。
髪だけではなく肌も透き通ったような白さだ。
見た目から戦闘向きというよりサポートタイプだろうか。
まだ子供か。子供が勇者として活動できるのか疑問に感じることはさておき、勇者パーティーの中で一人存在感を放つその少女は涼しい顔をしていた。
こいつ。何か秘めた力を持っているに違いない。つまり強い?
退屈していたところ、面白みが出て幸福感を覚えた自分がいた。
「ラスカ! 俺たちを助けてくれ……頼む!」
イケメン爽やか系リーダーの男は少女に助けを求めるように手を差し伸べる。
その弱々しい手で懸命に少女に向けられる。
悪役の俺が思うのは変な話だが、勇者パーティーの中で一番幼くマスコット的な存在の少女に言うべき言葉は「俺たちに構わず逃げろ」と言うべきではないだろうか。
リーダーとあろうものが助けを求めるとは哀れなものだ。
その助けを求める手を見ると踏み潰したくなる。
「気が変わった。まずはお前を倒してやる。リーダーさんよ」
悪役としての俺の本能はリーダーを倒すことに向けられた。
「や、やめろ。やめてくれ! なんでも言うこと聞くから見逃してくれ!」
「もう遅い!」
俺は高く飛び上がり、落下の速度を乗せて一気にリーダーを踏み潰した。
「グハァ!」
ゴキッと嫌な音が足裏に伝わった感触が心地良かった。それに快感を得た自分がいた。
そこから何度もリーダーを踏みつけた。容赦なんてしない。
弱い者は下で這い蹲り、強い者はその上に立つ。
それが世の中の仕組みだ。俺は悪役でありながら上に立つ存在であり続けたい。
「ちっ。もうくたばったか」
最後にリーダーを蹴り飛ばして一時的なストレス発散をした。
さぁ、頼れるリーダーとその仲間がやられて絶望するその顔はどうだ?
俺は少女が絶望で青ざめる姿を想像しながら見上げた。
「次はお前の番だ。覚悟はできているか? お嬢ちゃん」
相手が女、子供だろうと悪党に容赦なんて概念はない。
やるからには徹底的にやってやる。
リーダーがやられている時にタイミングを見計らって逃げればいいものを恐怖で脚が竦んでしまったのだろう。その気持ちは分かる。だが、逃げなかったことで痛い目に合う更なる恐怖が少女に襲い掛かることとなる。
少女の前に立つと下を俯き、呆然としていた。
少女に戦いの意思は感じられない。どうとでもなれと言った感じだろうか。
観念したのだろう。無理もない。
仲間が自分以外やられて絶望する顔が想像出来る。
逃げなかったお前が悪いんだ。死んで後悔でもしていろ。
ただ、その前にその絶望する顔を見せてくれよ。
相手の絶望は俺にとって幸福感を与える。それが悪役だ。
そう思って少女の顔を無理やりあげようと手を差し出したその時である。
ギュッと少女は両手で俺の手を握った。
「どうもありがとうございます。あなたは素晴らしい人です」
「…………あぁ?」
少女は俺が想像していた反応と言葉とは真逆であったことに動揺してしまう。
てっきり大泣きして助けを乞うか、許せない気持ちが高まって無鉄砲に立ち向かってくる反応を期待していたが、期待を裏切る反応が俺の前で起こっていた。
こいつは今、なんて言った? 聞き間違い? いや。
「本当にありがとう」
少女から出た言葉は感謝の言葉で聞き間違いでもなんでもない。
そっと泣いていたが、それは悔し泣きや怒り泣きとは違い、嬉し泣きの感情であった。
意味が分からない。
俺は大切な仲間を倒した張本人だ。
本来であれば敵意剥き出しにするはずが、何故か感謝するような反応をする。
「おい。お前、頭沸いているのか? 俺はお前の仲間を倒したんだぞ? 普通はもっと感情的に攻めてくる場面だろうが!」
「いえ。むしろ倒してくれて感謝します。実は私、彼らに脅されて仲間にされたんです。段々抜け出すに抜け出せずに困っていたところをあなたが全て壊してくれた。なので、感謝以外ありません」
意味がわからない。
この少女は何を言っているんだ。
「ちっ。気分台無しだ」
「どちらに?」
「気が変わった。俺は感謝されるために倒したわけじゃねぇ。お前に止めを刺す義理がなくなった。良かったな。命拾いして。拾った命だ。精々喜ぶんだな」
スッと少女に背中を向けた直後である。
「あの、待って下さい」
「あぁ?」
「あなたこそ私が求めていた逸材です。どうか私を弟子にして下さい」
少女は深々と俺にお辞儀した。
「…………………………?」
勇者パーティーを返り討ちにして悪事を働くつもりが予想外の対応に俺は嫌気が差した。
俺は恐怖に怯える顔が見たかっただけなのに感謝される筋合いはない。
本当、面倒クセェ。
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