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上海トラベラー・1993

作者: コバル

絶望のうちに日本を飛び立った、兜山健治(22)の前に現れる、謎の女性、亜美寺リン、香港人”人相見”チェン、

旅の出た健治に次々起こる不思議な出来事。偶然と必然が交錯する原稿用紙10枚の、短いシナリオ形式のお話です。

読んでいただけましたらありがたく思います。


上海トラベラー・1993


    

人 物

兜山健治(22)学生

亜美寺リン(26)(22)女優

ジャッキーチェン(35)人相見、

 タイムトラベル会社営業マン



○伊丹空港

健治(M)「世界が平和だった頃なんて

 覚えていない。そんなこと一度もなか

 ったのかもしれない。あの日、僕は

 口笛を吹きながら、伊丹空港から中国、

 上海行きの飛行機に乗り込んだ。

 1993年、1月30日の事だ。2度と

 戻るつもりはなかった。だが、今日付は

 2022年一月30日だ。僕はあの頃

 から何も変わらない。相変わらず価値

 ある物が何かわからずにいる。しかし

 今、廃棄を待つ古びた机の上で、たった

 一つ、僕がやるべき事はわかっている」


○T『1993年1月30日』


○飛行機・機内

   兜山健治(22)、ぼんやり窓の外を

   みている。後ろの席に、ニット帽を

   被った亜美寺リン(26)が座って

  いる


○上海空港

   荷物を持つ、健治、隣にリン

   健治は気がつかない。

   健治、厚いガイドブックを開く。

健治「空港から、市内まで30キロか・・

 歩いてはいけないな・・」

   健治タクシーを捕まえる。リン、

   走ってくる。

リン「市内まで行くの?私もあいのりさせて」

健治「ええ、いいですよ」

   リン、流暢な中国語で、タクシー

   運転手と交渉する。

リン「タクシー代は割り勘でいいですか?」

健治「もちろんです、ありがとう」

リン「タクシーは、値段に気をつけないとね、

 高い金額を言われることもありますから」

   タクシー発進する。

健治「とても上手な日本語ですね」

リン「あら、私、日本人よ。京都外国語

 大学中国語科の3回生なんです。中国語

 を磨く為に時々旅行してるのよ、貴方は?」

   リン、微笑む。

健治「僕は、関西大学の4回生です。語学

 は空っきしです。ちょっと旅に出た

 くなってここにきました」

リン「そう、そういう旅、私は好きだな、

 目的も行き先も決めない旅」

健治「そう、実にその通りなんです」

   気がつくと、リンは眠ってしまって

   いる。健治は、逆に眠らないように

   する。タクシー上海港近くの高級な

   ホテルにつく。リン、健治、タクシー

   を降りる。リン、ホテルの前で挨拶。

リン「あいのり、ありがとう、良いご旅行を」

健治「ありがとう、素敵な旅行を」


○上海・外灘地区

   健治、地図を頼り予約していた

   ホテルを探す。


○ホテル上海飯店・ロビー

   暗い照明、カウンターには誰もいない。

   椅子に老人が一人熟睡している。

健治「参ったな・・」

   ベルを何度も鳴らす。奥から頭に

   寝癖をつけたホテルマンが現れる。

健治「これを」

   健治、予約のチケットを見せる。

   ホテルマン、あくびをしながら

   部屋の鍵を出す。


○ホテル・中(夜)

   健治、ガイドブックを開いている。

健治(M)「いき先は決まっていなかった。

 しかし漠然と南に向かおうとは思った。

 人生の最後、できるだけ、遠くへ行きた

 かったのだ、翌朝桂林行きの列車に乗る

 ことにした、約18時間の列車の旅だ」

   ガイドブックを閉じる。健治、服の

   ままベッドに横になり、目を閉じる。


○列車・中(朝)

   人でごった返す、列車の中

   四人席に座る健治。駅で列車が止まり

   スーツ姿のジャッキー・チェン(35)

   が健治の前に座る。

チェン「こんにちは、日本人ですね」

健治「はい」

チェン「私は香港人です。傷心旅行ですか?」

健治「え?」

チェン「人相見だからわかるのです」

健治「ええ、そんなもんかもしれません」

チェン「私は、逃げています。逃亡中です。

 ははは」

健治「逃亡中?」

   チェン、黒い手袋を剥いで、自分の

   手を見る。

チェン「殺したのです。人を、この手でね」

健治「人を殺した?」

チェン「人を殺したことありますか?」

健治「いや・・生憎それはないです」

チェン「それは、嘘ですね。あなたは、

 今まで・・そうね、三人は殺してるね」

健治「それは、前世でとか、という事ですか?」

チェン「いや、今世で。そして、彼、ある

 いは彼女は死に、そして、あなたは、

 自らの命を絶った亡者ですね」

健治「僕は、生きていますよ、パスポート

 だって、帰りの旅券だってある」

   チェン、愉快そうに笑う。

チェン「死んでいるのに、生きていると

 思っている者は沢山いる。ほら、この

 列車の半分は生きる亡者です。パスポ

 ートなんて生きている証にはなりません」

健治「僕は死んでいるのか・・」

チェン「あなたの懐の5万円を寄付しなさい、

 そうしたら、あなたを生き返らせて

 あげる、効果がなければ、お金返します」

   健治、脱力。

健治「なんだ、そういうことか」

チェン「そういうことです。なんでも金

 次第です。特に私の世界では」

   健治、シャツの下から財布を出す。

健治「どうぞ、5万円です。パスポートと

 列車の切符を除くと僕の全財産です、

 あなたに寄付します」

チェン「それでは、ありがたく、私はこれで」

   チェン、5万円を受けとる。

   恭しく頭を下げる。

チェン「お金に困ったら右腕3万円、左腕

 5万円で買い取りますので連絡ください」

健治「このうんこやろう、消えやがれ」

チェン「言われなくても、消えますよ」

   列車は、駅につき静かに止まる。

チェン「約束は守りますから、安心して

 ください、何かあればこの住所へ」

   チェン名刺を渡す。

健治「これ、俺の住所じゃん」

○中国桂林・全景

   

○桂林駅

   列車は静かに駅に入る。健治、

   オレンジの大きなリュックを、

   列車の棚から下ろす。隣に短髪の

   亜美寺リン(28)が棚から荷物を

   下ろせずにいる。健治、リンの荷物

   を下ろす。

健治「手伝います」

   よく日焼けした顔でリン、健治を見る。

リン「ありがとうございます」


○桂林駅・外

健治「まだ、午前2時、どこの店もやって

 ないですね」

リン「駅で、朝を、待ちますか」

健治「そうですね、でも・・ぼく・・」

リン「ねえ、夜が開けたら、私といっしょ

 に漓江の川下りをしませんか?」

健治「でも・・僕お金が・・」

リン「貸してあげます。ただし日本に帰っ

 たら返してね」


○フェリー

   漓江をくだるフェリーの甲板

   水墨画そのままの山々が聳える。

リン「どう、気分は?」

   健治、興奮気味に山々を見上げている。

健治「いい気分です、そう、何年かぶりに」

リン「よかった。君、初めて会った時、

 ひどい顔してたもの」

健治「ひどい顔?」

リン「そうね、今にも列車に飛び込みそうな?」

健治「そうですか?」

リン「だから、来たの」

健治「来た?どこから?日本から?」

リン「いいえ、未来から」

健治「未来から・・マジで」

   船が汽笛をあげる。

健治「わざわざ未来から?僕はそんなに

 価値ある人間じゃないですよ」

リン「ものの価値がどこにあるか?そんな

 哲学的な話はわかんないけど、2022

 年の1月30日にあなたは私にファン

 レターを送る」

健治「ファンレター?」

リン「そう、そして私は気分が晴れた」

健治「はあ?」

リン「その日は、最悪で、私が唯一笑った

 のがあなたのファンレター」

健治「そんなつまんないもんで」

リン「世の中で一番価値がある事はね、

 退屈している女の子を笑顔にする事な

 のよ」

健治「はあ・・?」

リン「2022年1月30日、手紙待って

 るわよ」

               F I N


ここまで読んでいただきありがとうございます。僕は1993年1月30日から二週間、実際に中国を旅行しました。

上海から桂林、桂林から広州まで列車で行ったのですが、実際に香港(中国返還前)の方とお話ししました(語学が堪能な旅で出会った日本人を介して)とても紳士的で礼儀正しい方でした。シナリオの設定上は未来の主人公自身です。上海から桂林までの列車では、鉄道関係の技師という中国の方と日本のアイドルの話で盛り上がったり、広州駅では(香港まで列車で数時間)では、遅れている列車の待ち時間に、台湾の方と仲良くなり、昼ごはんを奢ってもらったり、とはちゃめちゃな旅でした。リュックを背負って、”地球の歩き方”を頼りに、旅仲間が増えたり減ったりしながらの一人旅でした。今でも思い出に残る旅でした、いつか中国旅行をもとにしたシナリオを書きたいと思っていて、短いですがやっとかけました。ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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