時
王は退屈していた。
自らが王になってはや千年。
挑戦者は既に一人残らず返り討ちにした。
もはや修羅道に戦う相手は残っていなかった。
王はゆっくり玉座から降り、庭に出る。
庭にはとてつもなく大きな黒い杉の木が生えている。
王は杉の前に立ち、一本だけ背中から腕を出す。
木の幹を丸太の様な腕が軽く打つと、静かにボコッという音が鳴り、拳の形に穴が空いた。
「腕、未だ落ちず···か。」
少し悲しげに呟き再び玉座へと戻る。
自分が衰えて弱くなればまた挑戦者と戦えると思い、しばらく鍛錬を止めて見たが、淡い期待を裏切り、自分の強さは一切変わっていなかった。
『じいやでも帰ってくればまた戦えるのだが····。』
じいや···すなわち先代の阿修羅王は王位を継承してしまうと直ぐに名前を捨てて旅に出てしまった。
『俺も旅に出るか·········ん!?』
長年戦い続けた阿修羅は魔法を使わなくても無意識の内に、自らを脅かす者の存在を敏感に察知する。
強き素質を持つ者、その微弱ながらも異質な魔力は別世界から来た事実を何よりも強く表していた。
ようやく戦える····。
阿修羅王は歓喜した。
その存在は未だ城から遠い位置にいるが、些細なことだ、最後に戦ってから九百年。その年月に比べたらそれを待つ数年など一瞬だ。
嬉しさに心を弾ませつつ阿修羅王は筋トレをするために再び庭へと向かった。