ロリは恋煩った
試合会場から城へと戻った、その日の夕食時。
ルイトガルトは自身の父親に怒っていた。
「明日は学校を休んで試合会場へ出向いてバルドって男を調べろなんて…いきなりすぎます父上!」
そんな彼に、同席していたリリディエラが尋ねた。
「説明口調ありがとう、ロキ。でもそんなに怒らなくてもいいじゃない。
今までだって、急に公務が入る事はあったでしょ?」
「今回は事情が違うんだよ姉上。せっかくあの子に会えたのに、何だか様子がおかしいんだ。
それに、変なヤツに絡まれるようになっちゃって…一刻も早く何とかしたいんだよ」
「一日いないくらいで、状況は変わらないでしょうよ。
ふーん、そんなに嫌なら断ってくれていいわ。そのかわり、あの子に会ったらアンタの本性、バラしてやるから!」
「はぁ?!ず、ずりぃぞ姉上!クソッ!」
突然始まった姉弟の言い合いに、王妃ロージアが待ったをかける。
「二人ともおやめなさい。それにロキ、口が悪いわ。
どうやら明日の試合はマルロワの命運がかかっているみたいだから…協力してあげてちょうだい」
「ぐっ…わかりました、わかりましたよ!
行けばいいんでしょ行けば。喜んで公務にあたらせて、いただき、ますっ!」
ルイトガルトはブスッとしながら答えた。
それを聞いたロージアはホッとするが…先程からずっと一言も話さないライネベルテに気づき、心配した。
「まあロリったら、全然食が進んでいないじゃないの。どこか具合が悪いの?」
「ううん、大丈夫ですわ。ちょっと食欲がないだけ…」
そう返事をするが、ポーっとしてどこかうわの空だ。
首を傾げるロージアに、リリディエラがコソッと言う。
「お母様、確かにロリは具合が悪いの。
…恋という病にかかったわ」
「まあ、何ですって?!お相手は誰なの?」
「先程お母様に報告した、明日の決勝戦に参加するタナノフ国王子ドルーガ様よ」
「あら!昔から少し大人びていて、利発で手のかからないロリが…話を聞く限り脳筋の王子に懸想するなんて。
自分と相反する人に惹かれたのかしら?わからないものね」
「母上も大概口が悪い気が…」
ルイトガルトは思わずつっこんだ。
末っ子が可愛くて仕方がないレイドラントは、ムスッとして言う。
「ふん。やたら大きい男だから、子供の乗り物か何かと勘違いしているのだろう。ロリは。
もう少し大人になればすぐ忘れるさ」
「お父様、ちょっとそれは無理がありますわ…」
「うるさいぞルル。それにな、吾輩はまだお前の話に納得してはおらんぞ。武闘会の優勝者でもない、一国の一騎士と結婚するだなんて…」
「あら、いいじゃないラウ。これは運命よ!守護騎士の一族と親類になれるかもしれないのよ?
あの『守護騎士と渡り人』の歌劇は人気公演だったし、私も舞台でよく歌ったわ。
それにラウと出会うキッカケにもなったじゃないの。こんなに嬉しい事はないわ」
「ぐぬぅ…そう言われると何も言えない…」
ロージアに説得され、黙ってしまうレイドラント。かつて彼女は大人気歌劇女優であった。
「何だよ、どいつもこいつも色ボケして。うらやま…しくはないけど。
明日はさっさと終わらせて、午後には絶対学校へ行ってやるからな!」
ルイトガルトはどこか悔しそうに言うのだった。
・・・・・・・
ライネベルテはその後お風呂に入ったが、入浴中もうわの空でのぼせかけた。
そして入浴後の一杯の牛乳を飲んだ後もポーっとし…鼻からツーっと出ていった…。
側にいたモネアは思わず二度見した。が、見間違いでなく現実に起きたと知り慌ててタオルで拭う。
「一体どうしたのですか!先程からポーっとしてばかり…いつもの元気なロリ様らしくありませんわ」
ライネベルテは鼻を拭われながら答えた。
「モネア…恋とはどんなものかしら」
「はい?!こここ恋?!」
モネアは仰天した。
「人を好きになったら…何をすればいいのかしら…」
「…とりあえず…鼻から牛乳はやめましょうね…」
その後モネアはライネベルテから詳細を聞きつつも、この出来事はずっと私の心に留めておこう、そう思うのだった。