ロリは放置された
次にライネベルテが目覚めた時、彼は既にいなかった。
「あれ?誰か側にいたような気が…そうだ、一房だけ長くて赤い髪の、すんごいイケメンに…」
その時、ぐううっとお腹が鳴る。
「あーあ、なんだかお腹空いちゃったわ。早くおウチ帰ってご飯食べたい…。
ルル姉様、どこへ行っちゃったんだろ…」
そう言って、辺りをキョロキョロするのだった。
・・・・・・・
リリディエラが王のいる部屋を訪れると…そこにはドルーガ、そしてナッジがいた。慌てて挨拶をする。
「まぁドルーガ様にナッジ様…でしたわね?こんな所で何を…」
「吾輩がお呼びしたのだ、今後の事で少し相談しようと思ってな。
ところでルルよ、お前が戻ったと言う事は…彼の容体は安定したのだな?」
王に聞かれ、笑顔で答える。
「ええ、何とか。命に別状はございませんわ。ただいくつか細かい神経が切れたままです。骨折もしているし…少し静養が必要ですわ」
「そうか、では彼にはマルロワの温泉療養地へ招待しよう。
彼が粘って戦ってくれたおかげで、バルドという男の怪しさに気付いたのだからな」
バルドという単語に、リリディエラの顔が曇る。
「やはりお父様も怪しいとお思いですか?」
「うむ。吾輩はアイシス国王カイザーと一緒に観戦していたがな、ヤツも疑っておった。
それにヤツの部下が早馬で来てな。この間の謎の発光現象の元であろう球体が、アイシスの城内に出現したと報告してきたのだ。
バルドと関係しているかはわからんが…何か嫌な予感がしてな。カイザーは急いで国に戻った、何かあれば知らせが来るだろう」
「まぁ、アイシスでそのような事が…。
では明日の決勝戦はどうしましょう?彼の素性がわかるまでは延期にしますか?それともドルーガ様には棄権を…」
「オラは棄権する気はないぞ。それにマルロワでの滞在期間も決められているから、延期もナシだ」
二人の会話を遮るドルーガ。ナッジも驚いて嗜める。
「で、殿下?!あの男と戦うおつもりですか?いくら殿下が強いとはいえ…危険すぎます!」
「でもアイツ魔法とかは使ってねぇんだろ?単純に剣の腕が良いんだ。
なら直接戦いながら、ヤツの真意をはかりゃいい。よーし、ワックワクしてきたぞ」
「………」
あまりの楽観ぶりに、王と王女は呆気に取られている。ドルーガは「あ、でも」と付け加えた。
「一つ気になる事がある。調べたらバルドは確かに我がタナノフの騎士だった。
でもヤツは絶対本人じゃねぇ、誰かが直接乗り移ってると思うんだ。それなら魔法とは違う類の術になるんだろ。
…そういうのが見破れる人とか、いねぇのかな。マルロワに」
ドルーガに問われ、王と王女はハッとして答えた。
「人を直接操る闇の気配、それを探知できる者…か。ああ、候補はいるな。吾輩の最も近くに」
「ええ、今は学校に行ってますが…明日、呼びましょう」
思い当たる人物がいるらしい。二人は頷いた。
「決まりだな、じゃあ頼んます。
オラは明日に備えて体を休めるか…行くぞ、ナッジ」
ドルーガは一礼し、部屋を出る。
「え?!ああ待って下さいよ〜殿下あ!」
ナッジも王と王女に一礼し、あわててドルーガを追いかけていった。
レイドラントは苦笑する。
「ハハハッ…少し脳筋っぽいのが気にはなるが…頼もしくて良い男ではないか。
彼ならもし優勝しても、安心してルルを任せられるな」
「あ、お父様。その件ですが、わたくしはウルスト様と結婚しますわ」
「ハッ?!どういう事だルル?!!!」
突然の娘の発言に、驚き声が大きくなるレイドラント。そこへもう一人の大声が響いた。
「あっ!ここにいた!!あたしを放置して…ルル姉様ひどいですわ!!」
見ると、モチモチのほっぺたを最大限に膨らませた、ライネベルテがいた。
リリディエラは内心、あぁ忘れてたと思いつつ弁解した。
「ごめんなさい。ドルーガ様が、倒れたあなたを運ぶと言ってくれたから…お任せしちゃっていたわ」
「ドルーガ様ってあのタナノフ国王子の?
あたし以外誰もいなかったけど…あ、もしかして赤い髪の人かしら?」
「そうよ。ああ、お父様に呼び出されたから途中でいなくなったのね」
「あのお方がドルーガ様なのね…はぁ…素敵なお方だったわ…」
ライネベルテは記憶を頼りに彼を思い出す。ポーっとして、うっかり思った事が口に出てしまった。すかさずリリディエラが反応を示す。
「まあ!ロリったら、ドルーガ様が好みなのね?!!!確かにあなたの好みにピッタリかも!
わたくしったら何故気がつかなかったのかしら。そうすればもっと早く会わせてあげたのに!」
はしゃぐリリディエラに、ようやくレイドラントが声を上げた。
「ルル!まだお前の話が途中だぞ!ちゃんと説明しなさい!
ロリ!お前もだ!男に懸想するなんて…10年早いし…吾輩、泣いちゃう!!!」
ポーっとする者、興奮する者、半泣きになっている者…
王の部屋は、大変賑やかなのであった。