表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/55

ロリは寝ぼけていた


 ライネベルテは夢の中だった。真っ暗な場所に膝を抱えて座っており、前世の事を思い出そうとしていた。


「何で血を見ただけで倒れちゃったんだろ…前にもあんな事があった?

 そうだ、確か釣りをしていて…大物が引っかかって…絶対に釣るんやって…もろた!言うて…」


 そう思い出しかけて、ふと目の前に赤い紐がぶら下がり…思わずフィッシュオンや!と言わんばかりに引っ張った。


「いてて…おっ、目が覚めたか?」


「………?」


 超好みの低音ボイスが聞こえ、ライネベルテはうっすらと目を開けた。赤い紐だと思っていたものは、髪の毛の束だった。

 深紅の髪の、男の人だ。褐色肌で前髪をオールバックにして…綺麗な緑色の瞳…何このイケメン…


 まだ頭がぼうっとしていて、夢と現実の区別がついていない。


「おっと…まだ寝ぼけてるみてぇだな。

 いいさ、寝てろ寝てろ。しばらくここで見といてやっからよ」


 そう頭をポンポンされ、ライネベルテはまた目を閉じ眠りについた。


 めっちゃタイプや…と、思いながら。







・・・・・・・






 一方、医務室には治療を終え眠っているウルストと、その傍らにはリリディエラがいた。


「ふぅ…大分魔力を消費したわ…彼はもう大丈夫そうだけど、私はまだ動けそうにないわね…」


 ホッとしたリリディエラだが、すぐに悲しい表情になった。


「大怪我してくれたら、なんて冗談でも言ってはいけなかったわ…。

 きっとバチが当たったのね。彼は何も悪くないのに…」


 思わず目を潤ませ、目頭を押さえるリリディエラの手を、誰かが取った。


「!ウルスト様……!」


「…おや、あなたは王女リリディエラ様ではないですか…女神様かと思った。

 フフッ。一瞬、こんな僕でも天国に逝けたのだと喜んでしまいましたよ」


「ま、まぁご冗談を…それより、気が付いて良かったですわ」


 大本命に微笑みかけられ、思わず真っ赤になる彼女を気にせず、ウルストは続けた。


「…僕は負けたのですね、あの男に。

 殺されたと思いましたが運良く生き延びて…いや、違うな。

 もし僕を殺してしまったら、あの男は失格になってしまう。だから死なない程度に痛めつけた、って所でしょうか。

 王女自ら治癒して頂くなんて…全く、お恥ずかしい」


「そんな事はありませんわ!とても素晴らしい剣技でした。

 それにあのバルドという男、どこか怪しくて…」


「あなたもそう思いますか?

 実は彼とは少し前、騎士の合同訓練の時に一緒に組んだ事があるんです。

 まだ若くて剣の動きにムラがあって…僕が指導してあげたんです。

 正直油断もしていました。でも先程の戦いでは全然動きが違った、まるで別人だったのです」


「魔法の類いかとも思いましたが…魔具には何も反応はありませんでしたわ。

 明日の決勝戦では、タナノフ国王子のドルーガ様と戦います。

 …万が一の事も考えて、棄権させたほうがいいのかしら。彼に何かあれば、外交問題にも発展してしまうかも…」


 悩むリリディエラに、ウルストはさらに問いかける。


「けれど、もし彼が棄権すればバルドが優勝して…あなたの結婚相手となってしまうのですよ?」


「うっ。そっ、そうだったわ…そんなの嫌。どうしたら…」


 急に焦る彼女を見つめながら、彼は呟いた。


「…僕は…伯父上のようには、なれないのかな…」


「え?」


「僕の伯父は…かつて騎士で『渡り人様』の護衛をし、彼女を守り抜きました。

 僕は彼のようになりたかった。強くて優しくて、最後まで愛する人を守った彼に憧れて…」


「渡り人様ぁ?!た、大陸中で話題になりましたわね。異世界から来た『渡り人様』と、『守護騎士』とのラブロマンス…!

 う、うっそ!まさかウルスト様の親族でらしたなんて…!」


 リリディエラは猫を被るのも忘れ、興奮した。

 彼らの物語は歌劇にもなり、今でも目玉公演となる程人気なのだ。彼女も何度も劇場へ足を運んだ。

 元々夢見がちな性格ではあったが、自分の目前に伝説のカップルの関係者がいると知れば、それはより加速する。


「僕にももう少し力があれば、あなたを守って差し上げられるのに…」


「!是非!守って下さいまし!」


「?!」


 突然ガシィッ!!と彼の手を掴むリリディエラ。


「今後の事はお父様に相談しますわ!

 そうよ、あんな得体の知れない残虐男と添い遂げるなんて、私でなくても全マルロワ国民が反対してくれるわきっと。

 だからウルスト様は安心して、怪我が完治するまでご静養くださいませ。

 完治したら改めてお父様達に結婚のご挨拶をしましょ!ええそうしましょう!!」


「え?結婚?!え、ちょっ…僕は護衛するという意味で言って…」


 リリディエラは彼のツッコミが聞こえず…いや、聞かないフリをしたのかも知れない…手を離し、座っていた椅子から勢いよく立ち上がった。


「そうと決まれば、早速お父様の所へ行かなきゃ!あっ、魔力切れで足元がフラつくわ…ぐぬぬ!な、何のこれしき!!」


 そして王女らしからぬ足の踏ん張りを見せつけ、部屋を出ていった。

 残されたウルストは呆然とし、少しして我に返った。


「プッ…フフッ。あれが彼女の素なのかな。

 王女然とするよりあっちの方が好みだね。フーミン様にも似ているし…」


 彼はかつて幼少期にお世話になった渡り人を思い出しながら、笑っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ