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ロリは知らない、女王様の誕生秘話を


 ―いい天気だ。彼等は今日も元気にやっているだろうか…そう思いながら、ドミナは空を見上げた。


 ―私の本当の名はデボネ。盗賊の娘だった。父であるドロイは数々の悪事に手を染めた。タナノフ国どころか、大陸中に指名手配される程に。

 母親が誰なのかは知らない、物心がつく頃にはいなかった。私は父に似ていないので、きっと母親似なのだろう。


 父は何故か私に悪事を働かせようとはしなかった。食べる物にも困らなかったし、それなりに身綺麗にもしてもらっていた。

 もしかしたら母はどこかの貴族で、父は彼女までも強奪して手に入れたのかもしれない。

 それなのに今ここにいないのは…彼の気に障る事をしたのか…もしくは自分で自分を…いや、これ以上は考えたくない。


 私は常に誰かに監視されていた。逃げられないように。時々下衆な輩にニヤニヤされながら見られている時は、本当にウンザリした。

 父が盗賊団のトップだから今は何もされないが、もし突然捕まったり裏切られたら…そう思うと不安でたまらなかった。常にここから逃げ出したいと思っていた。

 

 そんな私の人生に転機が訪れた、あの日。


 初めてダンデと出会った時。水浴びをしていた私を見て、驚き盛大に転んでいたあの人を見た時。

 彼の燃えるような深紅の髪と神秘的な翡翠色の瞳を見て、私は一瞬身動きが取れなかった。なんて美しいのだろう、と。


 聞けば、見張りの男は始末されたらしい。あの時はアジトから少し離れたオアシスまで連れて行ってもらったため、父の右腕とも言われていた強い男が監視役だった。そんな男をあっさりと倒したのか。

 そいつも監視中に私を舐めるような視線で見ていたから、「いつか絶対しばいてやる」と考えていた。ざまぁみろ、そう内心思った。


 その瞬間、私は自由を感じていた。ただ監視役がいなくなっただけなのに。

 気づけばその恩人である彼と共に、その場を離れていた…自分の正体を告げる事ができないまま。


 ダンデは自分が王族だと話していたが、まさかのタナノフ国王であった。

 さすがに身寄りのない怪しい私を城には入れず、宰相夫妻の家に預けられたが正直安堵していた。

 夫妻に、特にノルダにはとてもお世話になった。わからない事は何でも優しく教えてくれる、姉の様な存在だった。


 思い切ってアジトから逃げ出してしまった私だが、常に怯えていた。いつ盗賊団の奴らが連れ戻しに来るかわからなかったから。

 週に何度かダンデが様子を見に来てくれたが、その都度奴らだと誤解して震えていた。

 その度に彼は私を抱きしめてくれたし、場を明るくしようと、城での生活の愚痴や悪口を言って私を笑わせてくれた。

 いつの間にか一緒にいる時間が増えたし、二人で朝を迎える事が多くなった。

 あの時は…若かった。もう、彼の事で頭がいっぱいだった。


 ある日、ついにダンデにアジトの場所を教えてしまった。早くこの恐怖から逃れ、彼と自由に生きたい…そう自分の事しか考えておらず、後先を考えていなかった。

 その結果は、残酷なものだった。トップである父は彼自身の手で討ち取られ、数十人いた主要なメンバー達は皆、次々と問答無用で処刑された。

 にもかかわらず、ダンデは大陸中の英雄になった。

 …それほど私達盗賊団によって、かけがえのないモノを奪われた人々が多かったのだ。

 

 私はその場で泣き崩れ、全てを彼に話した。二人の間には、どうする事もできない立場の差ができてしまった。

 頭の中がぐちゃぐちゃになり倒れ、気がついた時には…妊娠した事を医者に告げられた。


 ダンデは何度も自分と共に生きる事を望んでくれたが、断った。どんな事情があろうと私が大罪人の娘である以上、側にはいられなかった。

 この家に住んでから知ったが、ある国の王妃が盗賊団の悪事によって亡くなっていた。もし自分の正体がバレれば、いずれ戦争にもなりかねない。

 その後私は無事ドルーガを出産し、ダンデに預けた。彼とはもう…お別れだ。


 それからノルダの提案で、とある刑務所の看守長を務めることになった。

 長らく住まわせてくれた宰相ニッチ夫妻にお礼を述べ、荷造りを始める。

 初めて働く事への不安と、あの人と息子への想いと、こんな人生になってしまった盗賊団への恨みも、一緒に詰め込みながら。

 頭が爆発しそうだった。


 ふと、引き出しの奥に何か隠されているモノを見つけ…私は目覚めた。


 最後まで面倒を見てくれた、ノルダの前に姿を見せる。彼女は直前まで、寂しさのあまり泣いていたが…その姿を見て、涙が引っ込んでいた。


 目の前にいたのは、黒のレザーキャットスーツ姿の女。右手に持つのは同色の鞭。

 驚きのあまり口がパクパクしているノルダに向かって、私は言った。


「私は…アタイは……今日からデボネじゃなく…ドミナだ!!!

 業務に忠実に!囚人達をシバくよ!!!」


 …なぜニッチ夫妻宅の離れ家に、あのアイテムがあったのか。私は知らない…。

 

 私が看守長になって、しばらくして。


 就任祝いだと、花を持って訪れた人物がいた。その男は、頭を剃髪していた。


 頭に光が反射し、眩しさのあまり私は目を瞑り…唇に何か触れていた気がするが、一瞬の事で分からなかった。

 私は失礼ながら大爆笑し、「何かやらかしたのですか、陛下?」と聞いた。本当に失礼だ。

 しかし、男も笑いながら言った。「…まあ、そんな所だ」と。


 男とは、誰も訪れない城内の礼拝堂で、たまに会っている。

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