ロリは牛になりたかった
―ここはマルタナアイ大陸の西にあるタナノフ王国。マルロワ王国の反対側に位置する。
その王国の城内で、一人の若い男が訓練場へと向かっていた。
「ハァ…ハァ…大変な事になったぞ!」
男はそのまま訓練場に着くと、場内にある井戸へと足を進める。
そこには褌一丁の男が豪快に桶で水をかぶっていた。
「ド、ドルーガ殿下ーーー!!!」
殿下と呼ばれた男は振り返り、濡れた前髪をかきあげた。
「ん?どうしたナッジ。メシはさっき食ったばかりだろ」
「どんな食いしん坊キャラですか僕は!!
違いますよ!マルロワ国から今度開催される武闘会の事で、緊急の追加連絡が来たのですよ」
ナッジと呼ばれた男があわてて書面を取り出し、指さした。
「ほらココ!大会優勝者への副賞に…
なんと!『リリディエラ』と書かれているんですよ!!」
「な、何だって?!!!!!!!
…で、それは何だ?美味いのか?」
ナッジは盛大にズッコケた。
「人です、女性ですよ!
…まぁいずれは美味しく頂けるんでしょうけど…ごにょごにょ…」
「?マルロワじゃ人を食べる習慣があんのか?
…意外とオラ達の国以上に野蛮なんだな。ちょっと引くぞ」
「…私が悪かったです、一旦食べる事から離れて下さい殿下。
彼女はマルロワ国第一王女、リリディエラ様ですよ。つまり大会に優勝すると、彼女と結婚できると言う事です!」
それを聞いたドルーガは、つまらなそうに一房だけ伸ばした後ろの髪を絞る。
「王女だぁ?副賞は毎回各国の特産品だったのに今年は違うのか?オラはマルロワのスルメが良かったな…。
その王女と結婚するったって、好みじゃなかったらどうすんだ?」
「スルメなんかより!断然!良いですよ!
殿下、ご存知ないのですか?!
リリディエラ様と言えば…母譲りの美しい金髪を持ち、淑やかで『マルロワの麗しき月』と呼ばれる程お美しい方だとか。
好みじゃないとか言うヤツはいないでしょう」
「月って…何か元気をもらえる感じじゃなさそうだな。オラの好みとは違うな」
「ここにいたーーーーー!!!」
ナッジは崩れ落ちた。
「オラはどっちかと言うと、お天道様みたいな…一緒にいてパワーをもらえるというか、戦う時ワックワクできるヤツがいいな!」
「それは好みの女性というよりライバルでしょうが!
お忘れですか殿下、ダンデ王がおっしゃっていたでしょう?『王位が欲しくば武闘会で成績を残した上で、嫁を娶ってからにしろ』と。
チャンスじゃないですか。もし武闘会で優勝したらどちらもすぐに叶っちゃうんですよ?!」
「おっ、そうか!じゃあ優勝したらオラ王になれるのか?!くーっ、ワックワクしてきたぞーっ!」
ドルーガは褌姿のままバンザイした。
「とりあえず服着て下さい殿下!もうすぐ公務の時間ですから、城に戻りましょう。
あと大会は僕も参加しますからね!立場は関係ないですよ、全力で行きます。美女がついてくるなら尚更!」
「そうだったな、よし!秒で倒す!」
「ひどいです殿下!僕それなりに強いのにー!」
ナッジは意気揚々と戻るドルーガの後を、涙目になりながらついて行った。
・・・・・・・
一方、マルロワ国では。
ライネベルテが牛乳を一気飲みしていた。
「ぷはーっ!もう一杯!」
「ロリ様、もう三杯目ですわよ。そろそろおやめになったほうが…」
心配するモネアに対し、首を振った。
「大丈夫よ、まだいけるわ!」
「一体どうしたのです?突然牛乳ばかり飲んで…牛さんは喜ぶでしょうけど」
「いっそなりたいわ牛に。こう…モネアみたいにバイーンとね!もちろん背も伸ばしたいけど」
「まぁはしたない。
それに大きくなりたいのでしたら、よく食べよく寝る…特にロリ様はたくさん睡眠を取らないといけませんわ。
昨日も遅くまで本を読んでいたでしょう?」
モネアに指摘されたライネベルテは、空になったグラスを置いて言った。
「だって勉強したい事がたくさんあるし、本も読みたい物が山ほどあるのよ。寝てる時間すらもったいないわ。
…私だってまた突然死ぬかも知れないし、やりたい事は何でもしたいのよ。生きているうちに」
「何ですって?!ロリ様!死ぬかもなんて言わないでくださいまし!
ロリ様がいなくなったら私…悲しいですわああああああああ」
そう言って、モネアはライネベルテを強く抱きしめた。
「む、むうーっ!むうーーー!」
その巨乳に挟まれたライネベルテは、酸欠で本当に死にかけたのだった。