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ロリは夜の女王様と出会った


 …一瞬、日本の夜のお店にでも来たのかと思った。


 目の前に、黒のレザーキャットスーツに身を包んだ美女が仁王立ちしている。

 褐色の肌、茶髪のワンレンに…体のラインがモロに出る衣装でも違和感のない、スタイルの良さ。

 そして何より驚くのは…腰に下げている、黒い鞭だった。ライネベルテは色々と警戒心MAXになり、さっきまで八つ当たりしていたドルーガに懇願する。


「ド、ドラ様逃げましょう!早く!あれは女王様ですわ!!」


「ん?女王様?彼女は看守長だぞ??」


「…え?ドラ様、あのお方を知っているんですか?」


 頭にハテナがついているライネベルテに、キャットスーツ姿の女性が近づいて来た。


「…おや?よく見たらドルーガ殿下じゃないか!こんな所で何してるんだい?

 …アタイはてっきり、人気の無いこの作業現場で美少女誘拐の瞬間でも見ちまったのかと」


「おい、誤解だよ看守長!…ところで作業現場って?」


「ああ。午後からココは囚人達に草を刈らせる場になるのさ…ちょっとお前達!!何ボサッとしてるんだい!!」


 と、彼女はいつのまにか近くにいた、手錠を繋がれた男の背へと鞭を当てた。「パンッ!!」と高い音が鳴る。


「ヒイッ!すんません!!」


「さっさと道具を用意しときな!でなきゃ作業前の昼飯は抜きだよ!!」


「はっ、はいいいい!!!」


 鞭を当てられた男のみならず、他の男達もビビってキビキビと動き始めた。


「ったく…最近じゃ、鞭を当てないと動かないんだよアイツら。

 まぁそれはともかく。殿下、この可愛らしい子は誰なんだい?」


「ああ、彼女は…ロリという。マルロワ国から来た留学生だ。3ヶ月間こっちに滞在する…そうだな、ロリ?」


 きっとライネベルテと言うと、マルロワの王女とバレて驚かれてしまうかもしれない。

 だからドラ様は愛称で呼んだのだと咄嗟に判断した。彼女も抱っこされながら、話を合わせて挨拶する。


「はじめまして、ロリと申します。ちょっと具合が悪くなって…こんな体勢で失礼しますわ」


「…おやそうかい。ロリちゃんねぇ、イイ名前じゃないか。アタイは…ドミナってんだ。そこの刑務所の看守長さ。よろしく」


「ドミナ看守長は囚人の監視が仕事で、彼等がこうやって外で建築や農作業をする際も責任者としてついてるんだ」


「殿下が何で兵も連れずにロリちゃんと二人きりでいるのか…まぁ深掘りしたいけど、次の機会にしとくか。

 ほら、早く城へ連れてお帰り。顔色が悪いじゃないか」


 ドミナに指摘され、ドルーガはハッとした。


「おう、そうだった。じゃあ行くかロリ」


「はい、では…失礼しますわ」


 ペコッと軽く頭を下げて、ライネベルテはドルーガに連れて行かれた。


 彼の乗ってきた馬が待機している場所へ着くと、そっとライネベルテを乗せる。それから自分も乗ろうとするが、なぜかまたドミナがいた方角を向き、動きが止まった。



「………………」



 ドルーガは明らかに遠くを見るような目をしている。それを見たライネベルテは、女の勘が騒いだ。


「あの…ドラ様?」


「おお、またボーッとしてた。ロリが見つかってホッとしちまったんだな。悪い悪い」


 そう答えて後ろに乗ってくる彼。

 …誤魔化された?と思い振り返って直球で聞いてみる。


「…もしかしてドラ様は、ああいうお方が好みですの?」


「ん?」


「ドミナさんは美人で元気で活発的で…確かに、タナノフの殿方にはモテそうですわね」


「まーたロリは変な誤解してんのか。オラは以前より囚人が増えたなって思ってたんだよ。

 囚人が増えたって事は、景気や治安が悪くなったって事だろ。王族としては何とかしないとと思うんだ。

 というか、あの人はオラより一回り以上歳上だぞ?」


「え?ドミナさんっておいくつなのかしら?」


「確か40くらいだったと思うが」


「ゔゔゔっそ!!」


 …マジか。もっと若く見えた。それであのキャットスーツを着るとは…なかなかね…!ますます夜の女王様感が出るじゃないの、とライネベルテは思った。


「ほら、変な事言ってねぇで…安静にしてろ」


「きゃっ」


 ドルーガに一旦持ち上げられ、馬の上でも横抱きにされた。


「むぅ…嬉しいですけど、ロリはまだ怒っているんですからね?リンリンの事」


「オラだって寂しいさ…こんな形で別れる事になるとは思ってなかったんだ。

 しかし、変だよな。どうしてロリの時だけ過剰に反応してしまったんだろうな」


「え?私の時だけ?」


「…こんな事ロリに言う必要はないかもしれねぇけど、今まで何回かお見合いはしてんだよ、オラは。

 大臣達の娘だぁ、妹だぁ、従兄弟のそのまた従兄弟の孫の友達だぁと押しつけられる形でな。

 だけどリンリンは相手の女性に襲いかかったことはねぇんだ。まぁ、今思えばどっちかというと興味なし、無視してたって感じだったな」


「まぁ。おモテですわね。…一部大臣とは赤の他人が混ざってますけど。

 リンリンはわかっていたのかもしれないわ。その女性方がドラ様とは上手くいかないと。ドラ様は全て断ってきたのですか?」


 ドルーガはあさっての方向を見ながら言う。


「ああ。何かこう、『違う』って思っちまってなあ。女心の『お』の字もわからんオラが、断る筋合いはねぇんだろうけど…」


「あら?そういう直感は意外と大事なんじゃありません?

 ロリだって、今まで殿方に懸想なんてした事はございませんでしたわ。ドラ様にお会いするまでは…」


「ロリ…」


「あら嫌だ、それ以上は言いませんわ。

 むしろこれからはドラ様に言わせていかないと…

 …ごめんなさい、ちょっと疲れて自分でも何言ってるのかわかんなくなってきましたわ。ロリもホッとしてしまって…」


 どれだけ大人びていても体は11歳。彼女は次第に疲労でウトウトし始める。ドルーガは頭を撫でた。


「ああいいさ。城に着くまで寝てろ。

 …って、武闘会でも似たような事があったな?」


「…………」


「寝ちまったか…本当に、()が来るまで無事で良かったよ…」


 ドルーガはライネベルテを一層強く抱きしめたが、眠っている彼女は気づかないのであった。

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