ロリはモチモチだった
前世の記憶を少しだけ思い出したライネベルテだが、家族に言っても混乱させるだけだ…そう思い、黙っている事にした。
その日の夕食での事。
家族で仲良く食事をし終えると、ふいにリリディエラ王女が席を立った。
「お父様。わたくし、決意しましたわ!」
「ん?どうしたのだルル?」
ルルとは彼女の愛称である。
「此度の武闘会の賞品…『わたくし』ではいかがかしら?」
ブフォッ!と、国王レイドラントは飲んでいた紅茶を吹いた。
「な、何を言い出すのだルル!」
「わたくしももう成人しましたし…さらに武闘会後に21の誕生日を迎えますわ。そのタイミングで結婚、っていうのもいいかなと思いましたの。
武闘会の参加者は事前に身元の調べがしっかりついているし、何より優勝者となれば、実力も文句無しで英雄扱い。
よく考えたらいい条件かしら?と」
「そ、それは確かにそうだが…まだ早いんじゃないか?」
渋る父親に、さらにライネベルテが加わる。
「嫌だわルル姉様。
姉様いつも『結婚するなら生傷が映える色白イケメン細マッチョに限る』って言ってるではありませんか。
もし色黒ゴリラマッチョが優勝したら、どうするつもりですの?まぁそれはそれであたしのタイプですけど」
…姉妹揃って、中々変わった好みである。
「万が一好みじゃなきゃ、その時は何か理由をつけて適当に断るわよ。人柄に問題ありそうとか、顔が怪しそうとか…」
「うわぁ、それはひどいですわ」
リリディエラの言い分に苦笑するライネベルテ。
「ははぁ、さては姉上…今回の参加予定者のリストを見たんだね。そこに書いてあった兵士達の予想コメントも。
最有力は、なんと直々に参加されるタナノフ王国の王子ドルーガ様と、その側近。
後は前大会の優勝者、アイザックの実兄…噂だと皆、強い上に美丈夫だと言われていると」
「ギクッ」
ルイトガルトの指摘に分かりやすく動揺するリリディエラだった。
ここで、ずっと黙っていた王妃ロージアが口を開いた。
「まあ…そう言う事だったのね。ルル。
あなたが本気で結婚相手を探しているのなら、許可するわ。でもね、人の良さは見た目だけでは分からないものよ。大会を観戦してしっかり見極めなさい。
この母も最初にラウとお見合いした時は『何このカイゼル髭ウケる』と思ったけれど…こんなに理知的で魔法の才があって、優しくて素敵な人だと思わなかったわ」
そう言いながら、正面にいるカイゼル髭…レイドラントに微笑みかけるロージア。
「…吾輩貶されている?でもロージアが美しいから許す!」
と、甘々な夫婦だった。
「うわ甘っ。マジご馳走様だよウエッ。
…四年に一度の大会だからなぁ。僕も出たかったなぁ」
「ロキ兄様、お行儀が悪いですわ。
兄様はまだ20歳未満だから参加できないし、何よりもうすぐ学校の入学式があるじゃない。総代なんでしょう?もうスピーチの内容は考えたの?」
妹に学校の事を問われ、途端に機嫌が悪くなるルイトガルト。
「んなの適当だよ適当。国一番の学校って聞いてたけど、入試は大した事なかったし。
あの子が入るって聞いてなきゃ、絶対行ってなかった」
「ああ、あのお方!ロキ兄様まだ諦めてなかったのね。『自分より背の低い殿方はお断り』って言ってらした…。
最近お会いしていないけどどうかしら。兄様も背が伸びている途中だけど…彼女を抜かしているといいわね」
「ロリ…その生意気な口も一緒に伸ばしてやろうか」
笑顔でルイトガルトに右ほっぺを引っ張られるライネベルテ。
「ふやああああ!もひになっひゃう!
(モチになっちゃう)」
「まあずるいわロキ!わたくしにも引っ張らせて」
姉も参戦し、左ほっぺを引っ張られる。
「ほわわわわ!!」
「ああ〜このモチモチほっぺ…幸せだわ〜。
もし嫁いだらこのモチモチともお別れしないといけないのよね……やっぱりやめようかしら…」
―さっさと嫁いでくれ!と思うライネベルテだった。
こうして、武闘会の賞品としてリリディエラが加わった事が各国に急ぎ通達されたのだった。