ロリは決意した
鳴り止まない歓声の中、ドルーガはまだ片膝をついたままのバルドに向かって手を差し伸べた。
しかし、彼は反応する事なくこう言った。
「俺の負けか…くっ…乗っ取り易かったとはいえもう少し強い者を選ぶべきだったな」
「…お前、何モンだ?何が目的だ?」
「ふっ…そのうち分かるさ…今は一旦退こう。お前とあのマルロワの王子には…いずれ…」
バルドは何かブツブツ呟いていたが、突然目を閉じてフラッとし、前に倒れた。ドルーガが急いで近寄り体を起こす。
「おい!大丈夫か?」
「う…うーん…」
倒れたバルドは彼の呼びかけに対してうなっていたものの、少ししてから目を開けた。
「…ハッ!お、おいらは何を…?」
「お、気が付いたか」
「…?あっ?!ああああなたはドルーガ殿下?!うわっ!な、なんでおいらの目の前に?!ていうかココは一体…?」
その場でアタフタとし、突如雰囲気が変わったバルドにドルーガもびっくりする。
「?まさかお前、本来のバルドか?
…ここは武闘会の会場だ。今オラとの決勝戦が終わって、オラが勝ったんだよ」
「ええ?!おいらが決勝戦?!殿下と戦った?!
すんません、何も覚えてなくて…会場入りして受付へ行った所までは覚えているんですけど…」
「お前、変なヤツに身体を乗っ取られてたんだよ。覚えてねぇか?」
「え?そういや何か急に頭の中に男の声がしたような…
って!あ痛っ!足が…腕も…体がアチコチ痛てぇ…!!痛てぇよーっ!」
そう言いながら、その場でのたうち回る。先程戦っていた時とは大違いだ。やはりもう別人なのだろう。
ドルーガはそれ以上質問するのをやめた。
「…しょうがない。おい、誰か早く担架を持ってこい!運んでやれ」
「あっ!殿下!おいら殿下のサインが欲し…あっ、ちょっ、待って!連れて行かないでーー!!!!」
彼は熱心なファンだったらしいが、ドルーガは興味がないようだ。そのまま無慈悲にも運ばれていくのだった。
・・・・・・・
そして、表彰式。
歓声の中、ドルーガはレイドラント王から褒章を授与された。
「ドルーガ殿、此度は本当に感謝する。無事に武闘会を終える事ができた」
「いや、まだ黒幕の正体が掴めていないので安心はできないが…また遭遇する事があったら戦いますよ。今度は絶対自分の力で勝ってやる…!」
「まぁ、頼もしいですわね。ふふっ」
王の隣にいたリリディエラが、笑って答えた。そして、姿勢を正してカーテシーする。
「それでは副賞ですが…ご存知の通り、ですわね」
ドルーガは少し困惑しながら返事をする。
「ああ。でも…本当にいいのか?」
「ええ。喜んで、マルロワの王女がタナノフへ向かいますわ。それでよろしくて?」
「ああ、まあ、それで…。
では一旦、オラは国に戻ります」
こんな美女を目の前にしての、歯切れの悪い返事。でもそれがドルーガらしい。リリディエラは笑っていた。
…その表情の奥に、不敵な笑みを隠しながら。
波乱の武闘会は、こうして幕を閉じた。
…そしてその後、会場から城へ戻る馬車の中では大騒ぎになっていた。
「ならん!吾輩はそんなの絶対認めんぞ!!ルル!」
「だってロリもそうしたいって言ってるもの。ねー、ロリ?」
「うん。お父様、あたしもう決めたの。
ロリはいつもいい子でしたわよね?たまには我儘言っちゃ…だめ?」
「なっ、上目遣いで見るんじゃない!許可したくなる!
ロージアー!吾輩を助けてくれぇぇぇぇ」
レイドラント王の情けない叫びが馬車中に響くのだった。
・・・・・・・
数日後。ドルーガはタナノフへ戻り、タナノフ王ダンデへ報告をした。
「まさか優勝するとは思わんかった!ワイは嬉しいぞドルーガ。美人の嫁さんまでもらう事になったしな」
「おう…………」
「?なんだ?浮かない顔だな?
…そんなに気が乗らないなら断るか?」
「ンな訳にはいかないだろ。相手は王族だぞ。こっちが断られるならまだしも…てか、てっきり断られると思ったのに…。
まあ、いいんだ。オラは早く…王になりたかったんだから」
「…ドルーガ。お前ワイに変な気ぃ遣ってるなら、速攻ハンマーで頭カチ割るからな。
そんな事の為にあの『王になる条件』を付けた訳じゃないぞ」
「分かってる。分かってるさ…。
ごめん、疲れたからもう休む…」
優勝したのにどこか寂しそうな顔をしながら、ドルーガは自室へと戻るのだった。




