ロリは見守った
決勝戦当日。
ライネベルテは会場の貴賓席にいた。
先日の試合後に気を失った事もあって、父に観戦を反対されたが説得し、姉の後押しもあって何とか許可をもらったのだ。隣にはそのリリディエラがいる。
「もうすぐ始まるわね、ロリ」
「うん…」
ライネベルテは終始不安顔だ。いつドルーガが、昨日のウルストのようになってしまってもおかしくないからだ。
その様子を見て、リリディエラは不意に彼女のほっぺを両サイドから引っ張った。
「ぶにぃぃぃぃ!!!!」
「ぷっ!なによその声!」
リリディエラはクスクス笑って手を離した。
「ルル姉様が急に引っ張るからよ!これ以上伸びたらどうしてくれるの!」
「ふふ。いつものロリに戻った。
…彼は大丈夫よ、あなたが信じて応援してあげなさい」
「うん、ありがとう姉様…」
ライネベルテに笑顔が戻る。
そうだ、もう始まっちゃうものは仕方ない。私にできる事は全力で応援することだ。
いざとなればウチが後ろからバルドを斬りつけたる!
…そんな過激な思想を持ちながら。
・・・・・・・
その頃、調査を命じられたルイトガルトは、バルドのいる控え室へ向かっていた。
(あー、めんど…早く終わらせよ)
そう思いながらスタスタ廊下を歩いていると、向こうから大柄の男が歩いてくる…バルドだった。
ちょうど良かった。激励しつつ様子を探ろう…と思い、話しかけようとした。
「バルド殿!今日の決勝戦、楽しみに…」
「…ッ!アアアアッ!!
…な、なぜ此処に…学校にいる筈では…」
彼はルイトガルトを見るや否や、突然頭を押さえ叫び声をあげた。
そのまま小さい声でぶつぶつ言いながら、踵を返しリングへと向かっていった。王族お付きの騎士が追いかけようとする。
「おい!殿下に向かって無礼な!待て!」
ルイトガルトは騎士を呼び止めた。
「いい、追うな!どうせもうすぐ試合だ。放っておいていい。僕達も客席へ向かおう」
そう言って、騎士と一緒に来た道を戻る。
…彼は歩きながら確信した。
(やはり闇の力を使っていたか。僕が出していた光の力に反応して、苦しんでいた…。
もうちょっとで本体が出そうな気がしたけど、まあいいか。あとはタナノフの王子に任せよう)
彼、ルイトガルトは実は「光の力」の使い手。後に自国民からは「マルロワの希望の光」と言われるのであった。
・・・・・・・
「それではこれより決勝戦を行う!」
審判の宣言でいよいよ試合開始となったが、ドルーガはすぐに相手…バルドの異変に気づく。
ウルストと試合をした時の彼は、しばらく攻撃を受けたりかわしながら様子を見るほど、楽しんでいるというか…余裕のある戦い方だった。
しかし今は違う。最初から木の剣で猛攻撃してきたのだ。何か焦っているような…そんな印象を受けた。
「…何か事情があるようだが、そんなの知らん。オラはオラの作戦があるからな」
ドルーガはバルドにつられて直ぐに応戦しないよう、冷静に攻撃をかわしていく。
そして時に所持している木の槍を振り回し、至近距離にならないよう間隔を保った。
しばらくその攻防が続き、血の気の多い観客が「どっちかそろそろ決めろ!」と声を荒げ始めた、その時。
突然バルドが片膝をついた。本人もいきなりの事で理解が追いついていないのだろう。
無言のまま、腑に落ちない顔でドルーガを見た。
「……?」
「おっ、そろそろきたか。ふーっ、危ねぇ。これ以上はオラも体力が続かねぇ所だった。
おい。お前、もうほとんど足が動かねぇだろ」
ドルーガに事実を指摘され、悔しそうな顔をするバルド。まだその顔は納得をしていなかった。彼はふぅ、と一息ついて続けた。
「バルドという男は、確かに予選を通過できるほどの実力はあった。だがやはり本選参加者の中では下っ端だ。
…まだ未熟で身体がしっかりできてねぇんだよ。そんな男に、元々強えヤツが乗り移って身体を酷使させたらどうなると思う?
…そうやって、いずれ身体にガタが来て動かなくなるんだよ。オラがさらにアチコチ動かせて、普段使わねぇ筋肉も使わせたからな。何気に結構痛いだろ」
「!」
「ウルスト殿に感謝だな。あそこまで戦ってくれなきゃ、ここまで分析できなかった。
あとはルイトガルト王子…まあオラは闇とか光の力とかよくわかんねぇけど、お前から少しずつ力が失われているのは、なんとなく感じてる。
オラ一人の力じゃお前に勝てなかった、悔しいけどな。また機会があったら戦おうぜ。今度は変な小細工はナシで…な!」
そう言いながら、ドルーガは槍を振り回してバルドの胸の牡丹を散らせた…相手が腹いせに投げつけた剣を避けながら。
唐突に終わった試合に、観客はポカンとしている。一人を除いて。
「いやったあああ!!!勝ちましたわー!」
そう叫び、客席でピョンピョン飛び跳ねる女の子。ライネベルテだった。それを見た審判がハッとして叫ぶ。
「勝者!ドルーガ殿下!!」
わああああっ!!と盛り上がる会場の中、ドルーガは叫んだ声の主…ライネベルテの姿を見つけ、ニカッと笑うのだった。
この審判全然仕事しない・・




