現代知識チートの続きが見たい
(* ̄∇ ̄)ノ 奇才ノマが極論を述べる
現代知識チートとは、現代の知識をファンタジー世界や過去の時代に持ち込むことを言う。
異世界転移、異世界転生の物語ではわりとよく見かけるようになった。
『現代知識チートマニュアル』
著者 山北篤
現代知識チートを解説するための本も出た。
帯には『そろそろ転送しそうな予感がしている人必読』と書かれている。現代知識チートの参考になる本だ。
現代知識チートは、ファンタジー世界や過去の時代を舞台にした物語で、主人公が現代の知識、技術を内政に利用する手法から内政チートとも呼ばれる。
また、その後は細分化し、新たな産業を起こす産業チート。銃や大砲といった新兵器を開発したり戦術や戦略を変える軍事チート。新たな農具や農法を開発する農業チートなどなど。主人公の得意分野の知識で、料理や害虫駆除、医療、観光、交易と様々に広がった。
例えば孤児院で作るものがシャンプーだったりリバーシだったりと、その世界にまだ無い商品を開発し販売するなど。新たな稼ぎを得て孤児院の子供たちは、食料を買い飢えから逃れ、夜も新しい服や寝具で寒さに凍えなくてもすむようになる。こういう話は、ほっこりする。
また、現代知識チートの結果に社会が大きく変化していくところは、これから世界はどうなるのだろう? とワクワクとさせられる。
だが、現代知識チートにはひとつの大きな欠点がある。
現代知識チートでは、現代の社会問題は解決できない。当たり前のことだが。
中には現代知識の産物が現代の社会問題とも繋がっている。
■新たな産業
現代知識チートでありがちなのは新たな産業を起こすこと。新たな商品が人々の人気を得て買われるようになる。まるで未来から来たような新しい商品が、人々の暮らしに変化を与え人気商品となる。
新商品はリンスに馬車のスプリングなど、作品ごとに様々なものがある。
新商品を作るところは利益を出し、新商品の製造で働く人たちの給料も増える。
給料が増え豊かになった労働者が、そのお金で商品を買い、新たな消費者となる。消費者が増えることで様々なものが売れるようになり、景気は良くなる。
この循環が良い方向へと続くとき、経済は成長する。労働者が働くほどに豊かになり、商売は活発になる。
ただし、この良い循環が続くのは需要が供給を上回っていることが条件になる。
■需要と供給
時代を経て技術が進歩すれば生産力が上がる。工場の建設や機械の導入など、大量生産が可能になると商品が市場に増える。
選べるほどに商品が増えると、消費者は性能や値段を比べて安くて良いものを買おうとするようになる。
供給が需要を上回れば、商品が市場に余り、売るために値引き合戦ともなる。
売れ残りに半額シールが貼られるのを待つ人も現れる。
ものによっては定価では売れず、作って売っても利益率が低くなる。グローバル化すれば値引き合戦で勝てるのは、貨幣価値の低い国の商品、人件費の安い国の商品となる。
ちなみに日本が輸出で利益を出した高度経済成長期、その背景には1ドル=360円という安い円相場があった。
需要と供給のバランスから物の値段は決まっていく。供給が需要を上回ってしまうと商品は売れ残り、値下げしてもなかなか売れないとなっていく。そして値下げし過ぎれば作って売る者は赤字になってしまう。
しかし技術が進歩すれば生産力は上がる。機械化、効率化で生産量は増していく。大量に作るほどに薄利多売となるが、やがては作るほどに売れなくなる。
テレビや洗濯機は一軒の家に10台も20台も必要無い。
需要が供給を上回るには消費者の増加が必要で、無限に人口が増加し続けなければならないとなる。
ところが現代では先進国から人口減少となり、購買者は減少している。
作っても高く売れない。利益が少なくなればしわ寄せは従業員の人件費にかかる。収入が少なくなれば余計な買い物は控えようとする人が増える。
そして消費者が減少すればますます商品は売れなくなり、商売は活気を無くし景気は悪くなる。
効率化によりコストは下がるが競争は過熱し、やがて利益を確保する事さえ難しくなる。さらには機械化により人を締め出すために消費者が減り、不況が深刻化する
経済成長していた頃の循環が、技術の進歩と共に悪化する方へと逆転していく。
■食料廃棄とこども食堂
食品ロスが問題として取り上げられる現代。日本の食品ロスは600万トンを超える。
ここだけ聞くと日本は食料が余っているように聞こえる。
一方でこども食堂の数も増加している。
2010年代より子供の貧困対策としてボランティアで活動が始まったこども食堂は、全国に広がり5000を越える。
『第7回・世界価値観調査』では、『この1年間で、十分な食料がない状態で過ごしたことがあるか』のアンケートの結果。『しばしばあった』『時々あった』と答えた人は、日本で9.2%。年代別では20代は11.5%。
国民の約1割が飢餓を経験しており、若年層の飢餓経験率が増加している。
前回の『第6回・世界価値観調査』では5.1%であり、日本で飢餓がじわじわと増えている結果が出た。
食品ロスと飢餓の問題が同時に起こることは奇妙に思える。食品の廃棄が問題になりながら、飢えに悩む人も増えているのが現代の社会問題だ。
■豊作貧乏
2020年、12月には野菜の廃棄がニュースになった。
台風の影響も少なく、白菜や大根などが豊作となった年。しかしコロナウィルスによる飲食店の時短要請など、出荷する先では需要が落ち込んでいる。
豊作だからと例年の10倍の量の白菜を出荷し、値段を10分の1にしても、安いからと言っていつもの10倍白菜を買う人もいない。豊作だからという理由で人の胃が10倍に広がるわけでは無い。
そのため市場に出回る野菜の値段を調整するために、野菜を廃棄する。豊作貧乏を解消するための需給調整。
市場に出回る量で値段は変わる。4月に緊急事態宣言が発令されてからは、自宅で調理する人が増加したことで需要が急増。供給が足りずに白菜の卸売価格は例年の3倍近くまで上がることもあった。
ところが11月に入ってからは野菜の値崩れが始まる。
2020年、白菜は8月にはキロあたり171円の卸売価格だったが、11月には104円に。
需要と供給のバランスでものの値段は決まる。野菜などは天候の影響を受け生産量をコントロールすることは難しい。
例えコントロールできたとしても、現実にはコロナウィルスのパンデミックなど予想外のことが起きる。
市場に流れる商品の量が増えすぎたなら単価は安くなり、生産者が困ることになる。生産者が利益を得るには、市場に出回る量を調整するために廃棄が必要になる。
野菜の値下がりから、収穫時期の白菜をトラクターで廃棄処理するという映像が報道され、もったいないと話題になった。
■経済を守るために?
供給が需要を上回れば作って売る側が利益を得られない。生産者が利益を得るための経済を維持するには、需要が供給より上回る方がいい。
食品の売買において、需要が食品を欲しがる人達、飢えた人達とするなら、全ての人達の腹を満たすだけの食品が市場に供給されたならば、生産者が赤字となり困窮する。
貧しい者の口に無料で食品が入っては、経済が破綻するのだ。食品の値段を保つには、常に一定数の餓死者がいるか、飢えに苦しむ人がいる方が経済は順調に回る。食品を作って売る側が利益を得るための経済社会では、どれだけ食糧を生産しようとも飢えに苦しむ人はゼロにはならない。
■怒りの葡萄
ジョン・スタインベックの小説『怒りの葡萄』は1930年代アメリカが舞台。故郷を追われた一家の物語。
この『怒りの葡萄』の中で食糧を捨てる描写がある。
ジャガイモは捨てられ、しかし飢えた人達が拾おうとすれば番人が邪魔をする。捨てられたオレンジは山となり、しかし貧しい者の口に入らぬように石油がかけられている。
飢えた人達は腐って崩れていくオレンジの山を見つめる。
市場での食品の値段を吊り上げるために食糧を廃棄し腐らせる。捨てたジャガイモもオレンジも無料で人に食われないようにするために番人が守る。果物は石油で汚し、豚は穴の中で殺され生石灰を上から撒かれる。
人には食糧を作る技術も労働力もある。しかし人の作った経済社会は、貧しい者の口にタダで食べ物が入ることを許さないシステムを作り上げた。
『怒りの葡萄』には、当時のアメリカに広がる資本主義的な経済社会の無慈悲さが描かれる。
『怒りの葡萄』は1939年に出版された。それから80年以上。この小説の中で指摘されたシステムの問題の解決手段を、人類は未だに発明できない。
■現代知識チートの限界
現代知識チートの行く先は、現代と同じ社会問題に辿り着くだろう。経済社会そのものを改変することもできないまま、ボランティアと生活保護、救貧院といった善意の対処方以外に手の打ちようが無い社会。
現代知識では解決不能で、これをどうにかするには未来知識チートでもなければ無理ではないだろうか。
科学技術が進歩し更なる食糧の大量生産が可能となっても、経済社会というシステムが変えられなければ、捨てる食糧と飢えに苦しむ人の両方が増えるだけだろう。
ならばどうすればいいか、と考えてみたものの私の頭では良い方法が思いつかない。私が未来から転生してきた人物で無いことが悔やまれる。
金持ちになる方法はふたつある。システムの穴を突き自分だけが利を得る手段を見つけること。自分以外の人たちを貧しくすること。
紙幣は国が発行し総量は国が管理する。
誰もが金持ちになるにはニセ札の大量発行でインフレでも起こすしか無い。
何かいい手段はないものだろうか?
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BGM『ラブソング』amazarashi を聞きながら