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冒険者と料理人  作者: 里崎
番外編
3/5

番外編・食堂の老人

本編の数日前の話。


自創作クロスオーバーの番外編。以下別作品のキャラが出てきます。

「白の丘、神使と狗」(「短編(ついのべ)まとめ」内)

https://ncode.syosetu.com/n2352fw/18/


#ファンタジーワンドロライ 参加作品‬

お題「ダンジョン」、「神の祝福」、「四大元素」

肉と油の焼ける香ばしいにおい。湯気の立つ料理が次々とテーブルに並び、そして次々と空になっていく。小気味良い音とともにそれぞれの皿に落とされる銅貨。

奥のテーブル席、注文の品を待つ間、荷物の中から地図を広げる甲冑姿の男。ほう、と隣席から声がかかった。白いツイードのジャケットを着た小柄な老人が、湯気の立つカップを片手に身を乗り出してのぞきこんでいた。‬


「見覚えがあるな。そりゃあどこの地図だ?」


「ダンジョンだ」


「ダンジョン?」


男は親指を立てて、大通りに面した窓の外、街の西側にそびえる岩山を指さす。


「西山の地下洞窟群の一つだ。神が冒険者たちを試すためにつくった地底迷宮」


老人が数回まばたきしたあと、ふむ、と小さく呟いて黒茶豆を口に運ぶ。


「ワシがつくったわけではないが、試しているのは事実だな。ちいと長くしたんだ」


「……そうですか」耄碌した老人のたわごとだと思いながらも、生真面目な男は律儀な相槌を返す。「なんのために?」


老人の、少し濁った眼球がどこか遠くを見る。白ひげの下から、ふふとしわがれた声が漏れる。


「嗚呼、お前さん、今世もまたそういう役回りか」


「……どこかで?」


「いや」楽しげに首を振り、肉料理を口に運びながら「水の巡りかのう、土が悪かったかのう」


「四大元素ですか」


「そうそう」


それでそれがどう繋がるのか分からず首を傾げる鎧の男のひたいに、老人はシワだらけの指先を向ける。「よし。前世での働きに免じて、特別だぞ、神の祝福をやろう」


無表情を貫いていた男がわずかに眉根を寄せる。「結構」


「まぁそう言わず」


そう言って食べ続ける老人の皿に盛られた料理を、男の鋭い目がじっと見つめる。


「……メニューにない料理だな」


「おう。塩バター生姜焼き。裏メニューだよ」


小鼻を膨らませて自慢する老人。黙り込む男。


「ワシくらい常連になるとな」


「通って何年?」


「この店ができたときからだ」


男の目がつうと横に滑り、マントルピースに刻まれた百年前の日付を見て、「そうか」とだけ返す。


「あっじいちゃん秘密だってー」


大量の皿を持って席間を器用に走り回っていたエプロン姿の青年が笑いながら寄ってきて、老人を小突く。


店の奥から見慣れない小皿料理を持ってきて男の前に置くと、

「悪いねおにーさん、秘密にしといてくれる?」

何が楽しいのか、歌うように小さくささやく青年。



ーーこの食堂、のみならずこの街全体が、ダンジョン最下層初踏破のニュースで沸き立つのは、この数日後。

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