悪の名台詞
漫画には、悪役が必要です。
いや、漫画に限りません、ドラマでもアニメでも、当然小説にでも、どういう形でかは悪役が必要になります。必ず、とは申しませんが、大半は悪役を必要とします。
たとえ日常を舞台にしたホームコメディにしても、悪役というか、ライバルみたいな人が登場します。昔だったら、貧乏な家に育ったけなげでひたむきな主人公をいじめる金持ちの意地悪お嬢様、とかそういった、悪役が今も昔も変わりなく登場します。
そして、悪役は憎まれ口を叩きます。刺々しい口調で、辛辣な表現で、或いは上辺は優しく穏やかな声調子で。中には悪役という重責に耐え切れず、自分の立場を主張するといった、言い訳じみた泣き言を抜かす女々しい連中も少なく有りません。そういった、悪役の名台詞も数多く御座いますが、その中でベスト1を選出するとしたら、皆さんはどの作品の、どの台詞を選びますか?
自分が選ぶ、悪役台詞No1は、タイガーマスクに登場した虎の穴マネージャー、MrXの、
「金に目の無いタイガーのことだ」
これを断トツのベスト1として推したいと思います。
凄い台詞ですよ。
主人公、タイガーマスク伊達直人は金を稼ぐ為、危険を承知で残酷なデスマッチや悪辣な怪人レスラーとの試合に出場し、傷だらけになりながらファイトマネーを手に入れます。その目的は孤児たちを集めて、楽しく生活できる夢のタイガーランドを建設する事にあります。傷つきながらも歯を食いしばって闘う直人の胸には、将来完成するであろうみなしごランドがありありと浮かびます。ジェットコースターをはじめとした、遊園地のような娯楽施設に恵まれて、明るく笑う子供たち、そしてその中央には、雄々しく聳え立つタイガーマスクの銅像が--この発想自体がどこかしら頓珍漢というか、なにやら軍事国家の独裁者じみた如何わしさに満ちて居りますが、ここはともかくタイガーの善意だけに焦点を当てて話を進めたいと思います。何はともあれ、タイガーがそこまで金に執着する理由は私利私欲の為ではなく、ひたすら子供たちの為であります。その事情を知っていながら平然と、涼しい顔して、金に目の無いなどと言ってのけるMrXの、あの残酷さ。勿論本人の目の前で言ったわけではありませんが、それでも凄まじいまでのインパクトが有りますよ、この台詞には。
以降、どれだけの漫画やアニメが製作され、無数の悪役が登場して悪そうな顔しながら嫌味な台詞を口にしたことか。その中に、これほどの台詞を目にしたことも耳にしたこともございません。やっぱり、梶原一騎という人は天才以外の無いものでもなかったのでしょうなあ。プロレス的なリアリティなどはどこ吹く風(プロレスに限りません、氏の漫画にリアリティのかけらでさえ見つけることは適いませんが)とばかりに展開するこの戦慄すべきドラマツルギー。現在小生もタイガーマスクを題材にした二次作品を投稿しておりますが、この凄まじいインパクトの足元にも及びませんなあ。