秘伝晶輪寺拳法入門 その10 〜脚撃技法(Part4)〜
蹴り技の実技と言う事ですが、正直言って、形の上で目新しいものは無いです。
ただし、前にも書いたとおり、目標を貫通する意識で速度を集中する、これが原則です。
練習方法も、脚が抜けるくらいの勢いで蹴り抜く様に。
教わった練習の中には、こういうのがあります。前蹴りの練習法なのですが、思い切り前に蹴り出し、脚の付け根、大腿骨と腸骨をつなぐ股関節が亜脱臼するくらいの勢いで遠くまで蹴り貫く、というものです。蹴り足は遠くへ放り出し、腰は引く。蹴り足を引くんじゃ有りません。足は遠くまで蹴り、腰を引いて股関節が抜けるくらいの勢いを着ける。他にも、両手を左右に広げながら蹴る、いわゆる十字腿なんかも習いました。北派少林拳なんかで使われる十字腿ですが、何のためにわざわざ腕を上げると思いますか?蹴りと同時に相手を殴るとか、顔にフェイントだとか、考えないでくださいね。否、練習すればそういう応用も出来ますが、第一に考えるのは腕と脚とで勢いを強化すると言う事です。それに、軽く相手の腕を手ではたくと人間は反射的に反応するので、そういう簡単なフェイントも使えないではない。組み手の最中は頭に血が上ってますから、案外簡単なトリックの方が有効です。
それから、蹴り足の速度鍛錬。これはそれ程高くない、腰辺りの位置で目一杯速く蹴ります。足首のスナップを利かせ、丁度金的蹴りでも練習するくらいの感じで。出来る限り速く蹴ります。その際、ある程度の速度を突破したら蹴り足が反動で返って来ます。そのくらい、高速の蹴りを修練してください。
それでですね、実際に前蹴りを使う場合、その場から、摺り上るような感じで蹴りだしてください。それも一瞬で。蹴る前にわざわざ膝を上げて、何て悠長な事はやってられません。地に軽く下ろしたリード足が、その場でやにわに奔り抜ける様な感じです。こういう蹴り技を、中国拳法では分脚といいます。同じ名称でも、北派少林拳では押さえ込んだ相手の顔に、下から足の甲で蹴り上げるような使い方をしますが、太極拳では前蹴りとして使用します。前蹴りでも、下から足の甲を持ち上げるような感覚で行うのが太極拳です。
更に、太極拳では基本的に高い蹴りは多用しません。
中断から下段が主です。ローキックや、踏脚、有名な斧刃脚など。斧刃脚と言えば、師匠からこういう話を聞きました。師が太極拳を習っていた道場は稽古が大変荒っぽく、衆に一度の練習では毎回救急車が呼ばれたとの事。そんな荒稽古の最中、斧刃脚がまともに脛を直撃、見事に骨折して御約束の救急車、その脚が折れた人ですが、どうなったかと言うと、翌週には歩いて顔出したそうです。まともに勁力が通り抜けたもので、折れ方も綺麗だったからすぐに癒着したとの事。うそか本当かは確かめておりませんが、師匠から直に聞いた話です。
斯様に、下段蹴りは恐ろしい威力を秘めております。何せ、二本一組で体重を支えているところに持ってきて、負担が掛かってる状態で激しい打撃を食らったらいかに鍛えても簡単に骨折します。フルコンの試合でも、膝関節を逆方向から蹴る関節蹴りは危険だからと言う理由で禁止されております。斧刃脚はどうなんでしょうね?他流の選手がこういう技を使ったら、難癖つけて反則にするでしょうねえ。
ハイキックなんて、まず使いません。フェイントくらいには使いますが、基本的にはまともな技とは認識できませんね。上段を蹴るにしても、下から顎でも蹴り上げるか、喉目掛けて端脚、すなわち足刀蹴りくらいですか。端脚は、案外姿勢を崩しません。上段を蹴るなら、廻し蹴りよりはよっぽど確実です。外れてもすぐに引き下ろせる。
ハイキックの場合、単品で使うよりローからの変化による二段蹴りの方が良い。それも、上段を本命にするのではなしに、何度かこれを繰り返して相手の意識を顔に集中させ、ローを命中させる為の囮に使うほうがいいです。華麗なるハイキックはバレリーナさんにお任せしましょう。