不意打ち
新しいクラスになってから、数日が過ぎていた。
思ったより、時間の流れは早かったように思う。
春休みの間はほとんどバイト漬けの毎日で、合間に琴音とデートしたり勉強を教えてもらったりと、それなりに充実していたから学校での日々が退屈に感じるんじゃないかと思っていたが、それは杞憂だったようだ。
三年生に上がったからといって、急に授業が難しくなるわけでもなかったし、十分ついていける範囲だった。むしろそれ以上の手応えを感じており、近々行われる小テストでもいい点を狙えると考えている。
このままいけば、来年の今頃は琴音と同じ大学に合格することは可能なはず。
そのことを、俺は願っていたはずだった。
「おはよう」
その日も登校し、教室のドアをくぐってクラスメイト達に挨拶をする。後ろには琴音も一緒だ。
何人かは声をかけてくれたが、教室にいる大半の生徒―主に女子―は、こちらに目をくれることはない。
とある席の一角を盛大に陣取って、なにやら朝からおしゃべりをしているらしい。
その中の何人が本当に会話を楽しんでいるのかはわからないが、中心にいる人物の気を惹こうとしていることだけは確かなんだろう。
遠巻きに見ている生徒も見受けられるが、それらのグループはあれに比べればごく小規模なものだ。
クラスの勢力図というものがあるのなら、進級早々勝敗は決せられたのは間違いない。
そんなことを考えながら自分の席に着いていると、後ろの席から声がかかる。
「おはよう」
振り返ると、眩しいくらい爽やかな笑みを浮かべた友人の姿がそこにあった。
「西野、おはよう」
こちらからも挨拶をすると、軽く頷いてより一層笑みを浮かべる西野。
三年になったからかわからないが、一年の頃よりさらにイケメンっぷりに拍車がかかったような気がするのは、決して間違いではないだろう。
チラホラ西野に視線を送る女子も見受けられるのがその証拠だ。
羨ましいと思うのが健全な男子学生として正しい姿なのかもしれないが、生憎と彼女持ちの俺にそういう感情が湧くはずもなく…
「葉山さんもおはよう」
「うん、おはよう西野くん」
あ、ごめん嘘。ちょっとメラっときた。
靡くはずがないし、口説いてるつもりがないのはわかっているけど、俺よりよっぽど美形の男が彼女に優しい笑みを向けるもんだから、たまに嫉妬してしまうのだ。
まぁその炎はすぐ消える程度のものだから全然いいんだけど、その度に申し訳なく感じてしまう。
「難しいもんだな」
西野はいいやつだから、俺なんかが嫉妬したところで気にしないだろう。
それでも友人にこういう感情を抱いてしまう自分が、人間としてまだまだだなと思ってしまう。
人間生まれ持ったものを変えるのはひどく難しいものだということを、俺は散々痛感している。
「え、なにが?」
「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ」
だけど、変えれないわけじゃない。
変わろうとする気持ちを、失ってはいけないんだ。
実際に自分を変えることができたやつを、俺は見てきた。
(天華…)
一時期孤立していたことは知っている。
笑わなくなったことも知っている。
自慢だった髪も切って、モデルの仕事を始めたことも知っている。
そうして今は、多くの人に囲まれて笑えるようになったことも。
天華、お前は、前に進もうと頑張ってるんだよな。
ふと胸を打たれたような気持ちになり、俺は人垣に囲まれた窓際の席へと目を向けた。
「…………!」
すると、何故だろう。
ほんの一瞬、天華と目が合ったような気がした。
「っつ」
慌てて目をそらすも、心臓が大きく跳ねたのが自分でもわかる。
(なんでこんなにびっくりしてんだよ、俺…)
アイツが今更、俺の方を見るはずないって、無意識に思っていたからか?
不意打ちを食らったような気分に、胸がざわめく。
「ゆきくん?」
琴音が心配そうに声をかけてくるので、なんとか取り繕うのだが、上手く笑えている自信がなかった。
(今更だろ、つまんないことで動揺してんじゃねーよ…)
アイツを好きだった気持ちなんて、とっくの昔になくなってるっていうのに。
なんでこうも動揺してしまっているのかわからないまま、やがてチャイムの音とともに教室に入ってきた担任が、まるで救世主のように俺には見えた。
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