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ツンデレ少女は素直になれない

天華視点です

「ほんと私、なにしてんだろ…」


私――来栖天華は帰宅してすぐ、後悔と一緒に自分のベッドへとダイブしていた。

ボスンと空気の抜けるどこか間抜けな音がして、柔らかい布団が私を優しく迎えてくれる。

それがなんとなく私は悪くないと言ってくれているように思えて、落ち込んでいた気持ちはふつふつと湧いてくる怒りの気持ちに切り替わっていく。


「そうだ、アイツが悪いんだ。せっかく久しぶりに私から話しかけてあげたのに、逃げるなんて…琴音とはあんなに楽しそうに話してたのに…」


ギュッと布団を握り締めながら、私は溜まった怒りを吐き出していた。

私の幼馴染、浅間雪斗は本当にひどいやつなのだ。



性格はひねくれていて、卑屈なくせに口は悪いし意地も悪い。

顔だって別にカッコよくないし、頭も良くない。

悪いところだらけだ。


私が話しかけてあげてもすぐに機嫌を悪くして喧嘩になるし、ほんと最悪。

全然優しくないし、男らしさのカケラもないし……こうして考えてみると、いいところが全くない。


うん、アイツは駄目だ。ダメダメだ。

こんなに可愛い私とじゃ、雪斗はとてもじゃないけど釣り合わない。私はすっごくモテるのだ。


カッコイイ男子にもよく告白されるし、雪斗なんてアウトオブ眼中。

ただの幼馴染ってだけで、恋愛なんて対象外もいいとこだ。



……だけどやっぱり、妙に気になる。

分かんないけど、いつの間にか目で追ってしまう。

今日も琴音と一緒にいるところを見てたら、なんか無性に胸がムカムカした。


なんであんなに嬉しそうな顔してんのよ。

話し相手だったら、いつでも私がなってあげるのに。

もちろん私の方が立場が上なんだから、雪斗が話しかけてくること前提だけど。

オタクっぽいアイツの話にわざわざ付き合ってあげるのなんて、我慢強い私くらいのものだ。

寛大な私の心の広さに感謝して、もっと敬ってほしい。



そうだ。だいたいなんで私に話しかけてこないんだ。

わざわざ同じ高校を選んであげて、せっかく同じクラスになったというのに。

ちょっと喜んでしまった私が馬鹿みたいじゃない。


化粧やメイクも、アイツ好みのものをしょうがないから選んであげてるっていうのに、馬鹿で鈍感だから雪斗は全然気付かないし。


変わりにいろんな子が私に近づいてきたけれど…正直いってどうでもいい。

男子は下心が見え見えだし、女子は女子で私が男子に人気があっていろんな子が寄ってくるからおこぼれに預かりたくて近づいてきたのが丸わかりである。

単純に仲良くなりたくて私のところにきた子なんてほとんどいない。

打算ありきの関係だった。


それでいつの間にか私が中心のグループができてしまったが、めんどくさいというのが本音だ。

彼女たちと接する時は、私はなるべく自分を隠さなければいけないし。

どちらかというと私は怒りっぽいタイプであるというのは自覚してるけど、普段はなるべく取り繕って、理想の自分を演じている。それで昔痛い目にあった、苦い思い出があるからだ。



過去の教訓を生かして高校デビューに成功したまでは良かった。だけど同時に失敗したとも思う。

私のそれは、あまりにも成功しすぎたのだ。


おかげで日に日に私の取り巻きは増えていくし、行きたくもない遊びに毎日付き合わされている。

カーストトップなんて響きだけは立派だけど、実際は気苦労だけが多くてがんじがらめの毎日だった。


歌うのだって、私は大して好きじゃない。

みんなが好む流行りのポップな曲よりも、私はメタルを熱唱したいのだ。

それも洋楽の激しいやつ。


歌いたい気分になったときは大抵雪斗を付き合わせていたのだが、春休み以来それもない。

おかげで私のストレスは溜まりっぱなしだ。


そのうちハゲてしまうかもなんて、うら若き乙女にあるまじき考えを抱いてしまうくらいには、今の現状にイラついている。



本当の私をさらけ出すことができるのは、雪斗だけなんだ。

顔を合わせるとすぐ喧嘩になってしまうけど、その時だけは私は本当の自分で話すことができていた。

顔だって好みじゃないし、背だって高いわけじゃないけれど。


それでも、アイツといると楽しいという気持ちだけは、本物だった。


だから本当は雪斗ともっと話したいし一緒にいたいのに、現実は全くうまくいかない。

すぐ近くにいるのに、すごく遠い。




寂しい




「……なに考えてんのよ、私!」


頭に浮かんだ考えを振り払うように、私はブンブンと首を振った。

絶対、絶対認められない。なんで私がアイツなんかで悩まないといけないのよ!


思わず枕をバンバンと叩いてしまう。

自分の気持ちを誤魔化しているなんて自覚はなかった。

これはそう、ただの八つ当たりだ。そうに決まってる。


とりあえず気が済むまで枕を殴ったあと、上がった息を整えて私の頭もようやく冷えてきた。

なんにせよ、このままではよくない。


「しょうがないけど、本当にしょうがないけど!一応雪斗と仲直りしてあげてもいいわ…」


誰ともなく私は呟く。自分にそう言い聞かせるためだ。

私もちょっと言いすぎたとは思う。アイツに友達がいないのはほんとのことだけど、元々友達の多いタイプでもない。痛いところを突かれたら、まぁ怒るのは当然だろう。


「そうすると、あとはどうするかなんだけど…」


私はチラリと窓の外を見た。

隣には白い壁作りの一軒家が建っている。雪斗の家だ。

行こうと思えばすぐにでも謝りにいけるのだけど…それは嫌だ。

アイツに頭なんて下げたくない。


これは昔から積み重なった意地である。

お互い引くに引けなくなっているのだ。

そうなると……頼りになるのはひとりしかいない。


私はスマホを手に取り素早く操作し、ひとりの番号を呼び出した。

高校生になってから少し疎遠になっていたけど、今日の様子を見る限り以前と変わっていないようだ。


割と校則の緩いうちの学校で髪も染めず、制服もキッチリしている辺り真面目なところは相変わらずらしい。

最近は茶髪や制服を着崩した子ばかり見ていたので、なんとなく新鮮だった。



呼び出し音が静かに響き、私は少し緊張する。

チャットでも良かったのだけど、今は一刻も早くあの子と連絡を取りたい。

べ、別に雪斗と早く仲直りしたいというわけではないんだ。うん、絶対。


やがて機械的な音声が止まり、スマホから人の声が聞こえてきた。

待ち人が出てくれたらしい。なんとなく私はほっとした。


「もしもし、天華ちゃん?」


「うん、私。久しぶりだね琴音。いきなりごめんね」


電話から聞こえてきた声は私のもうひとりの幼馴染、葉山琴音のものだった。

人を安心させるような、どこか落ち着く声。


この子も一緒の高校に進学したのだが、私達とは別のクラスになってしまい、少し疎遠になってしまった。

話しかけに行きたくても引き止められてそのまま教室で取り巻きの子達と話すことが多いため、なかなか機会が作れずにいたのだ。


今回が久しぶりの連絡となったのだが、なんとなく気まずい。

昔から雪斗と大喧嘩したときは琴音になんとかしてもらっていたけど、高校生になってまで同じことを繰り返すなんて、いくら琴音でも呆れてしまうかもしれない。


「ううん、大丈夫だよ。それで、なに?」


「え、えっとね。その、とっても悪いと思ってるんだけど、雪斗と今日ちょっとトラブルがあっちゃって…」


とはいえ事情を話さないわけにはいかなかった。

そうしないと、雪斗とまた話せなくなるかもしれない。それは嫌だ。

ただでさえ一ヶ月も話していなかったのだし。どんどん距離が開いてしまう。


……違う、そうじゃない。これは私の本音じゃない。違うったら違うんだ。

今日は変な考えが浮かんでばかりだ。これも雪斗が悪い、全部悪い!


「そう、全部雪斗のせいなんだから!」


「……つまりまたゆきくんと喧嘩したんだね」


電話の向こうからため息をつく声が聞こえてきた。

うぅ、やっぱり呆れられてる…


思わず涙目になってしまうが、頼れるのは琴音しかいないのだ。

なんとかならないか、お願いすることしか私にはできない。


「……そうなの。それで、琴音から雪斗にそれとなく話してほしいんだけど…」


「はいはい、仲直りしたいんだね。ふたりともほんと相変わらずで、似たもの同士だなぁ」


琴音の声には呆れと喜びが混じっているように思えた。

少なくとも怒ってはいないらしい。

希望が見えたことから、思わず私は身を乗り出してしまう。


「ね、ねぇ。それで雪斗と…!」


「慌てなくても大丈夫だから。内緒なんだけど、今日の帰りゆきくんに会ったんだ。それでゆきくん、なんて言ったと思う?」


むぅ、焦らすなぁ。琴音はたまにこんなふうに意地悪をすることがある。

普段はあんなにいい子なのに。


しかし、また琴音と雪斗は会っていたのか。もしかして、連絡を取っていた?

私はまだ雪斗の番号を知らないのに…!


「知らないわよ、早く教えて」


「クスクス、天華ちゃんはゆきくんのこと話すとすぐ不機嫌になるよね。もっと素直になればいいのに。えっとね、ゆきくんも天華ちゃんと仲直りしたいんだって。それで連絡取ってもらうよう頼まれたの」


「え!ほんと!?」


私はその言葉に食いついてしまう。雪斗が、仲直りしたいなんて!


「本当だよ。だから天華ちゃんから連絡してくれたのは、私にとっても渡りに船って感じかな。でも高校生になったんだから、喧嘩したならちゃんと仲直りしなきゃダメだよ。他人に迷惑かけちゃいけません」


「ご、ごめんなさい……」


そう言われると弱い。私は反射的につい謝ってしまう。

昔からこうなると琴音には頭が上がらないのだ。

とはいえ光明が見えた。自然と声も弾んでくる。


「とりあえず、明日の朝に仲直りしようよ。私も久しぶりに三人で学校に行きたいし。それでいいよね?」


「う、うん。琴音、本当にありがとう……!」


私の感謝の言葉にどういたしましてと返して琴音は電話を切った。

途端、私はガッツポーズを取ってしまう。


「や、やった、やった……!」


これで仲直りできる!しかも一緒に登校まで!本当にありがとう、琴音!

私は心の中でも幼馴染に感謝の言葉を伝えると、ベッドから起き上がった。


こうしてはいられない。明日の準備をしなくっちゃ!

とりあえず新しい下着を選んで、あと髪もちょっとセットし直したほういいかな…

アイツ鈍感だし、気付きもしなそうだけど。なんにせよ、明日は早起きしなくっちゃ!



少しして冷静になった私は、またベッドにダイブして身悶えすることになったりするのだけど、これ以上は話したくないので今日はここまで!



……早く明日にならないかな

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