友人キャラでもフォローできないときもある
みくりから投げかけられた質問には、少し気になるところがあった。
とはいえ、それは後回しでもいいだろう。答えるのはいいが、その前に訂正すべきことがひとつあった。
「土曜は確かに天華と出かけたけど、デートじゃないんだ。天華が買い物に出かけたいというから一緒に出かけたけど…」
俺と天華はデート目的で出かけたわけじゃない。ここは強調すべき点だった。
天華の友人だし、西野とも近い距離にいるみくり相手なら尚更だ。
あとあと拗れて変な誤解を生んでも困る。早めに言っておくに越したことはないだろう。
だがみくりは何故か俺の言葉に目を泳がせ、あらぬ方向を向いていた。
明らかに不自然な挙動である。なんというか、分かりやすく動揺していた。やはりみくりは隠し事ができるタイプじゃなさそうだ。
「え…?あ、あー、そうだね。うん、そうだった。ゆきっちからすればそうだよね、うん…」
気まずそうに声を詰まらせ、なにを言うべきか迷っているようにも見える。
勘違いしていたことが恥ずかしかったのかもしれない。失礼だけど、普段の彼女ならあまり気にしなそうに思えたんだが。
まぁこれでイニシアチブを取れたことは確かだろう。
あまり会話の主導権を握らせたくはない。俺とみくりではコミュ力が圧倒的に違うし、下手なことを言って言質を取られても困ると思ったのだ。みくりはマウントを取るタイプではないけど、土曜日の件には琴音も関わっている。あいつにこれ以上迷惑をかけたくなかった。
「まぁ分かってくれたならそれでいいんだけどさ。あったといえばあったよ。てか、なんでみくりが俺と天華が一緒に出かけたこと知ってんの?」
そういう思惑もあり、俺は流れに乗って気になっていたことを口にする。
みくりの性格からして答えてくれたとは思うし、答えもだいたい察することはできるけど、一応本人の口から直接聞いておきたかった。
「あー…それは…うん、隠してもしょうがないか…てか、こういうの私得意じゃないからなぁ。正直に言うけど、天華に相談されたんだよ、ゆきっちとデー…一緒に出かけたら、どうすればいいのかってさ。それで私も色々アドバイスしたんだけど…ゆきっちゴメン!騙すような感じになっちゃって!」
パンという音が廊下に響く。みくりが両手を合わせてごめんなさいのポーズを取っていた。申し訳なさそうにしていることがまるわかりだ。
みくりにこんなことをさせたいわけじゃなかった俺は、その姿を見て逆に慌ててしまう。
「いや、別にそんなことしなくていいから!なんとなくわかってたし、気になっただけだったなんだよ」
素直に謝られると、逆にこっちもやりづらい。
こういうところがみくりの美徳というか、ひとつの武器なのだろうが、居心地の悪さが半端ない。こっちが罪悪感に駆られてしまう。
「ほんとゴメン…あと話を蒸し返すようで悪いんだけど、天華となにがあったか教えてもらってもいい?夜になっても連絡こないし、昨日は昨日でいくらチャット送っても既読すらついてなくてさ…動画も見ちゃったら、私のせいでますます拗れちゃったんじゃないかって、ずっと心配で…」
よく見るとみくりの目元には、僅かに隈が浮かんでた。
あまり眠れていないのかもしれない。いつもの彼女とのギャップに心配になってしまった俺は、土曜日のことを説明することを決めた。
彼女に罪はないし、友達を心配している姿に、多分心をうたれたというのもあると思う。
「そういうことか…俺としても正直あまり思い出したくないんだけど、とりあえず話せることは話すよ」
天華との買い物の流れと琴音との遭遇。そしてその後、なにがあったのかをかいつまんで説明していく。もちろん琴音へ放った発言に関しては濁させてもらったが、そこは勘弁して欲しい。俺の口から琴音を侮辱する言葉なんて言いたくない。
そう考えると、天華への怒りがまたグツグツと沸き上がる。よくもあんなことを言えたものだ。正直今でも信じられない。俺が好きだった天華は、あんなことをいうやつじゃなかったはずなのに。
「………まぁそういうわけで、俺と天華は公園で別れたわけだ。帰ってからは琴音としか会ってないし、今の天華がどうなったのかは俺には分からないよ」
感情を押しとどめながらも、なんとか話終わった俺とは対照的に、みくりは顔を青ざめていた。
「嘘でしょ…」などと呟きも漏れている。見ているこちらが心配になってくる様相だ。
それでもなにか言わないと思ったのか、動揺を顕にしながらも俺へと話しかけてきた。
「え、えっともうなんて言ったらいいのか…それで、ゆきっちは、その…て、天華のこと、どう思ってる?話を聞いたらかける言葉が見つからないんだけど、一緒に出かけるくらいだから、まださ…」
しどろもどろになりながらも、たどたどしくみくりは言葉を繋いでいた。
やはり彼女は友人想いらしい。こんな話を聞いた後でも天華の心配をしているようだ。それを悪いとは思わないし、みくりはそれでいいと思う。
だけど、どう答えるかはもう決まっていたのだ。
「正直、当分は話したくないし、顔も見たくないと思ってる。本当に琴音に対して悪いと思っているならまだ違ったかもしれないけど、肝心の琴音がまだ天華を許していないようだからな…」
「そう、だよね…」
俺はハッキリと自分の考えをみくりに告げる。
それを受けて彼女はガックリと肩を落としていた。
気の毒に思うが、そう簡単に人の気持ちは変わるものじゃない。
俺の場合は変わらざるを得ないことが立て続けに起こったため、この気持ちに変化が訪れないとは言い切れないが、少なくともこの熱は当分冷めることはないだろう。
とはいえ、俺にはまだ天華に関わらなければならない事情があるのだ。
慰めにもならないかもしれないが、この情報を持って帰れば多少はみくりも天華に対して顔が立つかもしれない。
みくりをメッセンジャーに使うのは気が引けるが、俺が直接話すことなく彼女が伝えてくれるなら、それに越したことはなかった。
「でも、約束はちゃんと守る。俺は天華にまだ協力するって伝えてくれ。西野のことはできる限りサポートするってさ。その後のことは正直こっちに頼られても…」
「ちょ!ちょっと待ってゆきっち!今なんて言ったの!?」
続けようとした俺の言葉を、みくりは強引に遮った。
青ざめていた顔色がさらに悪化し、今は驚愕で白くなっている。
だが心配する間もなく、みくりは俺へと詰め寄ってきた。その勢いに押されながらも、俺は口にしたばかりの言葉をもう一度繰り返す。
「え…天華に協力するって」
「違うよ!そのあと!」
今度は怒られた。ついさっきまで謝られてたのに、すっかり形勢逆転してしまったらしい。
俺はタジタジになりつつ、促された先の言葉を口にする。
「西野のことをサポートするって言ったけど…」
「それ!なんでそこで宏太の名前が出てくるの!」
いや、なんでと言われても…
「西野が天華の好きなやつだからに決まってるだろ」
そんなの事情を相談されてるみくりなら、とっくに知ってることだろうに。
だけど、何故か彼女は口元を引きつらせ、今度こそなんと言っていいのか分からない顔をしていた。
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