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あなたには見えてない

「いや、違うかな。ゆきくんは天華ちゃんのものじゃないし、身を引いて欲しいっていうほうがきっと正しいよね」


ひとり納得したように頷く琴音。その姿が、また私をどうしようもなく苛立たせる。

明らかに余裕があるのが見て取れた。私なんて、まるで相手じゃないとでも言いたげだ。


「なんで私が引かなきゃいけないのよ!それをするのは琴音のほうでしょ!」


苛立ちを抑え切れなかった私は、昂ぶった感情に身を任せたまま激情を吐き出していく。

この激流にも似た想いを後押しするものが私にはある。それは雪斗に告白されたという決定的な事実だ。これがある限り、私の有利は明らかだった。


私は琴音に勝ったんだ。雪斗に選ばれたのは私だ。

だからそんなことを言われる筋合いなんてない。琴音は負けたんだ。泥棒猫を目論むだなんて、往生際が悪すぎる。

選ばれることのなかった琴音が、潔く引けばそれで済む話だ。それがずっと昔から続く、恋愛における絶対的な理なのだから。


それに私は、ずっと努力してきた。

雪斗に好かれるように、可愛くなろうと頑張ってきた。


別に私は自分の顔が好きというわけじゃない。だけど、これがあったから雪斗だって私の側にずっといたし、いつの間にか明確なアイデンティティーにもなっていた。

私が明確に琴音に優っている、唯一にして絶対的な長所でもある。


それでも顔が可愛いだけなんて、絶対言わせない。オシャレも頑張って覚えたし、雪斗好みの子になろうと努めてきたんだ。持って生まれたものに釣り合うように、それ以外のことも、ずっと頑張ってきたんだから。



だというのに、せっかくの私達のデートを追いかけてきて、邪魔をして。

これが許されることだとでも?そんなことはありえない。雪斗だって、そんな子を好きになるはずがないんだ。


「うん。だからそうしたんだよ。一度はね」


「嘘だ。だったらなんで今さら―――」


こんな、直接私に喧嘩を売るような真似―――!


「諦めて、私はゆきくんの背中を押したんだよ。天華ちゃんに告白してあげてって。きっと両想いだからって。でも、それを踏み躙ったのは天華ちゃん。あなたなんだよ」


「え…?」


あの告白は、琴音の…?

それを聞いて、私の中でカッと燃え上がるものがあった。


「そんなはず、ないでしょ!デタラメ言わないでよ!好きな相手を他の誰かに取られて、それでいいなんて、思うはずない!」


そうだ。そんなのおかしい。

だってそんなの、辛いだけだ。好きな相手が振り向かないからって、他の女のために背中を押せるはずがない。あんなの、物語のなかだけの話だ。他人事だから外から見れば綺麗だけど、自分の立場になったらできるはずがないんだ。

琴音だって美人な子だ。プライドだって、少なからずあるはずなんだから。


雪斗の性格だって琴音は熟知してるんだし、いつか付き合える可能性はゼロじゃないと思ってたから、あんなに執着してたんだと思ってた。

自分にもチャンスがきっとあるはずだから、側にいたんだと。だから私はずっと琴音を警戒してた。私だってそうするだろうから。

それなのに自分からそのチャンスを投げ捨てた?そんなこと、絶対有り得ない。


私なら無理だ。雪斗が他の誰かのものになるなんて、考えただけで寒気がする。そんなことは許せないと、心のどこかが叫んで張り裂けそうになる。


琴音だって、それは同じはず。だから、だから私は…


いつか取られるのが怖くて、あんなことを言ってしまったのに…!


だから認められない。認められるはずがない。


琴音に譲ってもらったなんて、お膳立てしてもらったなんて、絶対に認められるはずがないじゃないの…!!



だというのに。私は琴音をライバルだと思って、負けないよう強く強く琴音を睨んでいるというのに。


私を見る琴音の目は、どこまでも冷めたものだった。まるで敵とすら思っていないような、つまらないものを見る目で私を見ていた。


「本当に、変わらないね。天華ちゃん。あなたは昔から、なにも変わっていないんだね」


もう一度、穏やかな声で琴音が言う。繰り返すように、諭すように。

まるでワガママを繰り返す子供に、躾を施すように、私に言うのだ。


「あなたは何も見ていない。ゆきくんのことを見ていない。今の天華ちゃんは、自分が見たいゆきくんだけを見ているんだよ。だから、彼の心が分からない」


対等な恋敵としてではなく、教えを授ける母親であるかのように。


「天華ちゃんのことをゆきくんが幸せにしてあげるというのなら、それでいいって思ってた。そうして天華ちゃんも成長して、二人が寄り添って歩いてく姿を見れば、きっと私は満足だって。そう自分に言い聞かせてきた。でもね―――」


どこまでも穏やかな声で、私に語りかけてくる。

だというのに、その言葉は私に重りとなってのしかかっていく。

どこまでも重みを持って、私の中に溜まり続けてしまうのだ。


「あなたはゆきくんの幸せを願えない。天華ちゃんは自分が幸せになることしか考えていない。そんな子と付き合ったら、私の好きな人はきっと不幸になる」


そんな、そんなこと…

私はちゃんと、雪斗のために、ずっと…!


「だから決めたの。もう我慢なんてしない。私がゆきくんを幸せにするって。天華ちゃんじゃ無理なんだよ。はっきり言うけど、私は女の子としての天華ちゃんを見限った」


その言葉に今すぐ反論したい。そんなことないと叫びたい。私のほうが、琴音よりも雪斗を幸せにできるのだと言いたかった。

だけど、琴音はそれすらさせてくれなかった。私に向けられた琴音の目が、どうしようもなく怖かった。


心の底にいる、臆病な私を見透かしているようで。


そんなことできるはずがないと、全部分かっているみたいで。


私はなにも言えなかった。


「だからね、天華ちゃん」


なのに琴音は、話し続けることを止めてくれなくて。


「あなたには身を引いて欲しい。天華ちゃんの存在は、ゆきくんを悲しませるだけだから」


言葉のナイフを、私に向かって刺し続ける。

ブクマに評価、感想ありがとうございます


まだ続きます

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― 新着の感想 ―
[一言] >他にいい男なんていくらでもいるんだから、さっさとそっちにいけば良かったのに。 まー、それ天華=サンにこそ言いたいですわ。 結局のところ合う合わないでいうと、向いてる方向がお互い自分にし…
[一言] 臆病さを防衛本能て隠してきたツケかな こうすれば喜んでもらえる、こうすれば自分を見てもらえる ある種の媚びが歪んだんだろうな まぁ涙で顔ぐしゃぐしゃになってくれたんでごちそうさまっす
[一言] 男は好きになった人より好きになってくれた人の方が幸せになれるってことでしょうかね(苦笑) 自分の幸せと相手の幸せ、どっちを優先するかかな。 天華の心が折れてくれれば変にストーカー化したりヤン…
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