次の日の朝
次の日の朝は、気持ちよく目覚めることができたと思う。
やはり昨日、琴音に話を聞いてもらえたのが大きかったのだろう。
まだ天華に振られた悲しみが全て癒えたわけではないけど、それでも前を向こうと思えるようになれたのだから。
だから、きっと大丈夫だ。
たとえこれから天華の姿を見ても、昨日のように落ち込むようなことはないと思う。
「いってきます」
今日も昨日と同じ時間に家を出る。
その姿を、両親も今日はなにも言わずに見送ってくれた。
むしろ顔色が良くなったと安心してくれていたことに、俺としてもホッとしている。
まぁ昨日の帰りは遅くなってしまったので、心配をかけてしまったことに対しては申し訳なく思っているけど。
後から聞いた話によると、あの様子では早まって自殺でもするんじゃないかとか、あるいはフラフラして事故にあってしまったのではないかと、母さんは相当ハラハラしていたらしかった。
別に反抗期というわけでもないし、親にそんな心配をかけてしまったことには心が痛む。
帰り道で連絡くらいはいれるべきだったと、俺としても反省している。次からは気をつけようと心に刻んでいた。
だけど先ほど鏡で見た俺の顔は、珍しく晴れやかなものには見えたし、少なくとも表面上はいつも通りに戻れたということなのだろう。ある意味山場は乗り越えることはできたはずだ。
「おはよう」
そんなことを考えながら門を出ると、近くの電柱に寄りかかるように立っている天華の姿があった。
こちらに目を向けず、スマホをいじりながら挨拶をしてくる。
その姿はなんとも不遜なものだったが、近くに人影もないし、その相手は十中八九俺なのだろう。
そう判断し、俺も天華に朝の挨拶を返した。
「ああ、おはよう。天華」
「ん…」
これで違ってたり無視されたら恥ずかしかったが、どうやら大丈夫なようだった。
反応してくれて正直助かる。無反応ではやはり辛い。
短く頷くと、天華がこちらに近づいてきた。
そのまま俺の隣に並び、歩調を合わせて歩き出す。
もちろん天華がいたのは偶然じゃない。今日も一緒に登校する約束をしていたからだった。
昨日帰ってからようやく気づいたのだが、天華から連絡がきていたのだ。
ただシンプルに「明日も一緒に学校行ける?」とだけ表示されていた文章に俺も短く返事を返した。
朝のうちに昨日のことについて、謝罪しておきたかったのだ。
向こうから切り出してくれたのはありがたかった。
一応既読はついていたので大丈夫だとは思っていたが、多少不安はあったのだ。こうして並んで歩けていることに、内心ホッとしている。
「昨日は返事が遅れて悪かったな、いろいろあってさ。それに、置いていってしまったのも、悪かったよ。ごめんな」
「別に気にしてないから…そっか。いろいろ、ね…」
今日の朝は素直に謝ろうと決めていたのもあってか、思っていたよりスっと謝罪の言葉を口にすることができていた。
だけどどうしよう。全然気にしていないように見えないんだが。
やはり昨日の別れ方が引っかかっているのだろうか。いつもより随分と大人しいし、言葉も少ない。
気落ちしているのは明らかだった。
俺達はしばらくの間、無言で歩き続けることになる。なんだかデジャヴを感じる光景だ。
(全然俺に目を合わせようともしないし、やっぱ気にしてるんだろうなぁ)
どうしたものだろう。こいつ結構打たれ弱いところあったりするからな…
普段は俺に対して強気だし、周りには合わせるようにしているみたいだから、そういう顔をのぞかせることはまずないけど、時たまこうして妙にしおらしい一面を見せることがある。
そこが普段とのギャップもあって魅力的に映ることもあったのだが…何故だろうか、今の俺には、そんな天華に、あまり心が惹かれなかった。
普段なら心の中でガッツポーズを取ってしまうほどのレアな表情なのだが…どうにも感情が揺れ動かない。
庇護欲のようなものは確かにあるのだが、それは恋愛感情とは違うだろう。
「昨日の埋め合わせはするからさ。なんかして欲しいことがあったら言ってくれよな」
いつもならこうして下手にでるのも、好感度稼ぎとご機嫌取りを兼ねてのものだが、今はただ心配だという思いのほうが勝っていた。
俺の中で天華を見る目が、以前とは確実に変わってきているように思う。
これも琴音の影響はなのだろうか。これがいい方向に向かっているということなのかは、まだ判断がつきそうにない。
「…じゃあ次の土曜日、買い物に付き合ってよ。前のドタキャンもあるし、一日付き合ってもらうから」
天華がそう言って不安げに俺のことをチラリと見てくる。
…なんでそうなる。わざわざ俺と一緒に買い物?どういうことだよ。だいたいこの前のあれは不可抗力だろうが。
ドタキャンと言われるのは心外だし、そもそもなんで俺を買い物に誘うかも分からず、つい訝しんでしまう。
「いや、俺じゃなく西野を誘えよ…」
「あ…え、えーと、そう!よ、予行演習よ!西野くん誘うのはまだ恥ずかしいけど、アンタなら問題ないし!」
少し戸惑った天華が取って付けたように話す姿を、俺は半ば呆れた眼差しで見ていた。
いや、問題だらけなんだが…俺、昨日琴音に告白されたばかりだし。
とはいえそれを口に出すことはしない。昨日の今日でこんな話をするのは、さすがによろしくないだろう。
天華にとっても琴音は幼馴染だし、変にギクシャクされても困る。
琴音にもきっと迷惑がかかるだろうし、昨日は天華の様子がどうもおかしかった。
下手なことをいえば、火に油を注ぐことになるのは明らかだ。
地雷がどこに埋まってるかも分からないのに、やぶ蛇をつつく真似をするつもりはない。
俺は琴音のことは、天華にまだ話さないことに決めた。
それに伴い、この話は断ろうとも。
あの時の優しい目をした琴音の顔が脳裏によぎる。
まだ付き合っていないのは確かだけど、さすがに他の女の子と買い物に出かけるというのは不誠実というものだろう。
「なぁ天華、そのだな…」
「もう決めたから!絶対だからね!それじゃ私、先に行くから!」
「あ、おい!」
が、俺が断りの言葉を口にする前に、天華が強引に話を切り上げた。
そのまま俺の話を聞く気がないとでも言うかのように駆け出して、前を歩いていた友人グループへと合流してしまう。
(あーもう、参ったな…)
こうなってはどうしようもない。一応あとでチャットでも話そうとは思うが、あの様子ではどこまで話が通じるやら…
(念のために、後で琴音にも言っとくか)
万が一ということもある。誤解を生まないためにも、このことを後で琴音に報告しておくことを決め、ため息をつきながらも俺は歩き出す。
なにかあったら…そのときはとにかく謝ろう。
振られた以上、天華とのデートだなんて浮かれることはとてもじゃないができそうもない。西野にも悪かった。
(なんというか、要らない気苦労ばっか背負い込んでるな、俺…)
こういう運命にあるのだろうか。少しだけセンチメンタルな気持ちになっていると、後ろから肩を叩かれる。
同時にどこかで嗅いだ覚えのある香りが俺の鼻をくすぐった。なんとなく柔らかな、女の子の匂いだ。
「ゆきくん、おはよう」
「あ、琴音。おはよう」
琴音がいつの間にか近づいてきていたのだ。
噂をすればなんとやら。道理で覚えがあるはずだ。昨日ずっと近くにいたためか、どうやら体が覚えていたらしい。
告白の件もあったし、それがなんとなく変態チックな気がして、気はずかしくなった俺は挨拶を交わした後、つい琴音から目をそらす。
そんな俺のことを気にした素振りも見せず、琴音は自然と隣に並んでいた。
「ゆきくん、ちょっと元気になったみたいだね。良かった」
「…そうか?」
「うん、私が言うんだから、間違いないよ」
「琴音のお墨付きか。それなら安心していいのかもな」
琴音がそういうのなら、きっと間違いじゃないんだろう。
自然と頬が緩んでいくのを感じる。俺はきっと、嬉しいんだろう。
こうして琴音と話しているだけで、自然と気分が高揚していく。
今はただ、こうして並んで歩くだけで幸せだった。
天華の件も話さなければならないが、それはもう少しだけ後回しにしておきたい。
今はただ、こうして琴音と歩く時間を、大切にしたいと思い始めていたのだ。
これが自分の思いが変わり始めた予兆であることに、俺はまだ気付いてはいなかった。
修正に大分手間取りました、すみません…
ブクマに評価、感想ありがとうございます
今日もチャレンジします
ポイントできたらください
広告の下にポイント評価を付ける欄がありますのでよろしくお願いします
あ、無理はしなくても大丈夫です(・ω・)ノ




