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ツンデレ少女と喧嘩別れ

「お前、なんでここにいるんだよ。クラスのやつらと先に帰ったんじゃ…」


「い、いいでしょ、別に。今日はちょっと用事があったのよ」


俺が疑問を口にすると、天華はどこか慌てたように目をそらした。

頬も少し赤らんでいる。なにか恥ずかしいことでもあったのだろうか。

琴音のように教室に教科書でも忘れたとか?でも、今日は宿題もなかったはず…

首をひねって考えても、正直まるで分からない。


とはいえ、正直この状況は俺も気まずい。

なんせ校門といったら学校帰りの学生が必ず通る場所だ。今もチラホラとこちらを見てくる生徒がいる。


特に天華はただでさえ人目を惹くのだ。久しぶりに話すことのできた嬉しさはあるが、これ以上の好奇の視線には、俺が耐えられそうにない。

俺は一刻も早くこの場を離れようと、天華に声をかけた。


「そ、そっか。早く終わるといいな。じゃあ俺はもう帰るから」


「あ、ちょっと待ちなさいよ!」


そんな言葉を置き土産にして、脱兎の如く俺はその場から逃げ出した。

天華がなにか言っていた気がするが、今はここからとにかく離れたかったのだ。

どうやらぼっちの期間が長すぎて俺はコミュ障まで併発してしまったらしい。

久しぶりの想い人との会話だというのに、とんだチキン野郎である。


正直自分が情けなくて仕方なかった。

とはいえ足は止まってくれず、俺は無我夢中のまま走り続けるのだった。





「はぁ、はぁ……こ、ここまでくれば大丈夫だろ…」


なにが大丈夫なのか自分でも分かっていないが、周りに学校の生徒の姿はない。

とりあえず目的は達成したようである。


「えっとここは…駅前か。そこそこ走ったんだな」


割とあてもなく走っていたつもりだったのだが、無意識のうちにたどり着いた場所は学校から一番近い駅の広場だった。

近くにはモールやカラオケなどの遊び場も点在しているため、学校帰りの学生もよく利用しているはずだ。今はまだ時間も早いため、駅に向かう人影もまばらだった。

俺はひとまず呼吸を整えると、これからの行動をどうするか、しばし考えることにする。

せっかくここまできたのだし、買い物するのも悪くないだろう。


「さて、これからどうしようか…」


「そ、それを考える前に、とりあえず一発殴らせてくれない?」


「え…」


ひとりごちた俺の呟きに反応する声が、不意に背後から聞こえてきた。

そんな馬鹿なと思いながら振り返ると、息を荒げて膝に手をついている天華の姿がそこにあった。

全速力で俺に追いすがってきていたようで、自慢の髪も風でボサボサになっており、せっかくの美人が台無しとなっている。


「な、なんでお前がここにいるんだよ」


「ア、アンタが人の話を聞かずに走り出したからじゃないの…殺されたいの、雪斗……」


「ひっ」


訂正しよう。美人はどれだけ乱れようとも美人である。ただし怖さも段違いだった。

汗で顔に張り付いた髪がいい感じに禍々しさを増している。

その顔からは怒りがまざまざと伝わってきた。将来ホラー女優でも通用しそうな迫真の形相だ。


あまりの迫力に俺がタジタジになっていると、ようやく天華も落ち着いたのか顔を上げて髪を払い、瞬く間にいつもの彼女に戻っていた。

この変わり身の速さはさすがだなと、俺は思わず感嘆する。


「だいたい、なんでアンタ私から逃げ出してるのよ。前はそんなことなかったじゃない」


「そ、それは…」


困惑する俺は天華が小さく呟いた、琴音にはあんなに楽しそうに話してたのにという声は聞こえなかった。

どう返事をするべきか、俺のなかでも定まっていないのだ。

まさかぼっちを拗らせたからですなんて、こいつには死んでも言いたくなかったのである。



上手い言い訳を必死に考えていると、訝しんだ顔をしていた天華がなにかに気づいたのか、意地悪そうにニヤリと笑った。

その顔には見覚えがある。俺に対して優位に立てたことを確信したときに浮かべる笑みだ。

嫌な予感そのままに、いやらしげに口角を釣り上げた天華は楽しそうに話し始めた。


「ああ、そういうこと。私がますます人気者になっちゃったから話しかけられなくなっちゃったんだ。そうよね、私ったらすっごく綺麗になっちゃったものねー」


「うぐっ」


ヤバい、見透かされてる。完全に図星だった。

思わず固まってしまった俺の顔を見て、天華もますます確信を深めたらしく、勢いを増して俺を煽ってくる。

こうなると反撃の材料もない俺は、もうなすがままである。


「それに対してアンタは見る限り友達もいないじゃない。ほんとかわいそう。全くアンタは昔からそんなんだから、私くらいしか一緒にいてあげる人が…」


「う、うっせーな!ほっとけよ!それに友達だって今日できたわ、馬鹿にすんな!」


とはいえ黙ってばかりもいられない。多少は言い返さないと気がすまなかった。

天華にやられっぱなしというのは、どうにも癪に障るのだ。

長年の間に培われた天邪鬼の精神が、この場でまたも首をもたげたのである。


「今日ってアンタ、もう高校入って一ヶ月経ってるじゃない。それでようやく一人とか、どんだけ友達作るの下手なのよ」


「お、多けりゃいいってもんじゃねーだろ!だいたいお前の周りにいるやつらなんて、いかにも遊んでそうなのばっかじゃねーか。男も多いし、どうせいかがわしいことだってやってんだろ!」


「は、はぁ!なんですって!」


あとはもう売り言葉に買い言葉だ。互いにヒートアップしていき、罵倒の言葉が俺たちの間を飛び交っていた。

本当はこんなことを言いたいわけではなかったのに、熱くなった頭は冷静になってくれそうにない。

最後に俺たちはにらみ合い、フンと鼻を鳴らして同時にそっぽを向いていた。


(ああもう、なにやってんだよ俺…)


ここに琴音がいたなら、きっとなんとかしてくれたのに。

そんな情けない考えが浮かんできたが、覆水盆に返らずである。

この場で頭を下げて仲直りなど、とてもじゃないができそうになかった。


「俺、帰るから。もう話しかけんなよ」


「そっちこそ。さっさと消えてよ、ほんとウザい」


そう言って俺たちは別れていく。久しぶりの会話は最悪の喧嘩をもってご破産となったのである。


「やっちまった…」「やっちゃった…」


後悔のため息をつく俺の背後で、天華もまたため息をついていたことに気付けていたなら、また違った未来があったのかもしれなかった。

だけど、俺は気付けなかった。俺たちはすれ違ったまま、違う方向に向かって歩いていく。



まるで俺たちの未来を暗示しているかのように。



結局お互いの背中が見えなくなるまで、俺たちは肩を落として振り返ることなく歩き続けた。

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