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ツンデレはタックルとともに

「へへへ……」


その日の午後は大変気持ちよく迎えることができていた。これほど爽やかな気分で過ごせた日はいったいいつ以来だろう。

少なくとも中学時代まで遡ることは間違いない。俺の連絡帳に新たに加えられた男子の名前に、俺は思わずニヤついていた。


「ついに、俺にも高校で友達が…!」


心の中でガッツポーズまでしてしまう。

俺はぼっちではあったが、自分から孤立を望んだわけではない。

むしろ学校においてぼっちはベリーハードモードだ。特に体育の時間など地獄そのもの。


体育教師の二人組で組めよという言葉は俺にとっての即死呪文である。授業のたびに壊れた機械のようにいうものだから、俺は密かにbot先生と呼んでいた。

毎回そんなことが続くわけだから、あいつ友達いないのかとでも言いたげに遠巻きに見てくるクラスメイトの視線がいたたまれない。まさに針のむしろだった。


だが、これでそんな生活からもようやくおさらば。現金なもので、俺は明日からの学校生活が早くも楽しみになっていた。


そんなわけで俺は意気揚々と校舎を後にし、あとは校門をくぐれば学び舎を背にするところまできていた。

もう桜も散りかけだが、そんな光景もなかなか風情があるものだ。目に見えるものが、今は全て美しく見えてくる。

こんなに気分がいいのだ。どうせ俺を気にするものなど誰もいないしと、周りを確かめることなく鼻歌を歌い始めてしまう。

それくらい俺は浮かれていた。


「フフフーン…」


「ちょっと」


だからだろう。俺は校門に寄りかかり、気だるそうにスマホをいじっていたひとりの女子に気付くことができなかった。


「今日はいい日だなー…ルルルー」


「おいコラ」


さて、帰ったらなにしよう。弱いと思われてフレンド切られたら嫌だし、やっぱりレベルあげとくかな。いや、気分がいいし本屋に行くのもアリか。

そういえば気になっていたラノベが今日発売だったはず――



「無視すんな!」


「ひでぶっ!」


意識を完全に自分の世界に飛ばしていた俺は、その意識外の攻撃に対応することができなかった。

背後からの強烈なタックルを受け、俺は無様な悲鳴を上げてしまう。

肺から息が吐き出され、体が危険信号を脳に伝える。

めっちゃ痛い。それが俺の脳細胞が出した結論だった。


「おっ、おう!…うごぅ…!」


「なにオットセイみたいな声出してんのよ、アンタとうとう野生に帰っちゃったわけ?」


思わずたたらを踏んで痛みにのたうち回る俺に慈悲のカケラもない罵声が飛んできた。

女子のようだが、この声の主こそ間違いなく俺にタックルを食らわせてきた犯人だろう。


いじめか?ぼっちすぎてついに俺もいじめの標的になってしまったのか?

だが、俺はもうぼっちではない。友達ができたのだ、愛と勇気だけが俺の味方の日々は終わった。だけど勇気くん、今だけはもう一度俺に力を貸してくれ――


俺はなけなしの勇気を振り絞り、背後へと振り返った。

暴力は苦手だが、やるというならやってやる!

そんな意気込みを決め込んだわけなのだが…


「…はれ?天華…なのか?」


「なんて顔してんのよ、相変わらず間抜け面してるわね。アンタは」


そう言って鼻を鳴らす赤毛の少女。

俺の幼馴染にして、いまやカーストトップのリア充。

来栖天華が仁王立ちして、俺を睨みつけていた。


…なんでこいつがここにいるんだ?


思わず自分の頬をつねるほど、俺は今の状況を信じられずにいるのだった。

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