決意
「あ、ゆきくん」
「お、琴音か」
合宿所の廊下で、俺は琴音にバッタリと遭遇した。
時間が若干遅いためか、今は廊下には人の気配もなく、俺と琴音の姿しかない。
お風呂上がりなのか琴音の髪はしっとりと湿っており、妙に色っぽく感じてしまう。
なんとなくいたたまれなくなった俺は目をそらしそうになるが、琴音は俺のことを何故か思い詰めたように見つめてきた。
琴音にしては珍しいその表情を見て、なにかあったのかと言おうとしたが、その前に琴音が口を開いた。
「ゆきくん、天華ちゃんと仲良くなれたんだって?良かったじゃない」
「へ?」
いきなりそんなことを言われた俺は、思わず目が点になってしまう。
「私のほうにも回ってきたんだよ。天華ちゃんに気になる男の子がいるんじゃないかって。それで女子のほうでも天華ちゃんに人が集まっちゃって。私はなんとなく抜け出してきたところなんだ。ゆきくんは一緒の班だしその相手なのかなって」
「そ、そんなことになってたのか…」
まさかの事態だ。そんなことになっていたとは。
とはいえ犯人は分かっている。おそらく東さんの仕業だろう。
あの時スマホをいじっていたのはそのためか…
「いや、それが俺とは限らないだろ。西野かもしれないし…ち、ちなみにその男の子の名前も出回ってたり…?」
「それは出回ってないね。どうも情報がどこかで止められてるみたい。それでますます天華ちゃんに話題が集中しちゃってるんだよね」
それを聞いて俺は胸をなで下ろした。
東さんの良心が働いたのか、それとも砂浜さんがせき止めてくれているのかは分からないが、なんにせよ俺の名前は出ていないようだ。
とはいえいつ誰が口を滑らせるかも分からない。あとで班のメンバーには口止めをお願いしないとな…
そんなことを考えていると、琴音がじっとこちらを見つめてきた。
なんだろう。どこか思い詰めた顔をしているような…
「こと…」
「でも、その相手って、やっぱりゆきくんだったりするんでしょ?」
「っっ!!」
俺がどうしたのか聞く前に、琴音が先に口を開いた。
しかもその問いは、見事に今の俺にはドンピシャだ。
一瞬息が止まった俺を琴音は見過ごすことはなかったようで、琴音はやっぱりとため息をつく。
「いや、なんで…」
「なんとなく分かるよ。一緒の班だっていうのもあるけど、天華ちゃんとゆきくんって、昔から喧嘩ばかりだったけど仲良かったじゃない。そうじゃないとこれまで一緒にいないでしょ?」
そう、なのだろうか。
確かに俺と天華はこれまでずっと喧嘩してばかりだった。
だけどなんだかんだで仲直りして、すぐにいがみ合うけど離れることなくここまできたのだ。
気が強くて生意気で、怒りっぽいしいつも喧嘩してばかりだったけど。
俺はそんな天華のことが、昔からずっと好きだった。
綺麗な赤い髪も、釣り目がちなその瞳も、ずっとずっと大好きだった。
だけど、俺はそんな天華にまるで釣り合っていなくって―――
「天華ちゃん、ゆきくんのこと好きだと思うよ」
「え…?」
その言葉に、俺は思わず琴音を凝視してしまう。
琴音はなにを言ってるんだ。天華が、俺を?
「私、二人とずっと一緒だったから分かるんだ。天華ちゃんはゆきくんのことをずっと見てたもの。だから、きっと天華ちゃんはゆきくんが好きなんだと思う」
「天華が、俺を…」
本当、なんだろうか。
だとしたら、俺と天華は―――
「ゆきくんも、そうなんでしょ」
琴音が優しく、だけど確認するような口調で俺に聞いてくる。
見透かされてると、なんとなく思った。
その目があまりにも綺麗すぎて、誤魔化せないと直感する。
俺は琴音の目を見つめ返し、ゆっくりと頷いた。
「…ああ。俺は天華が好きだ」
「そう、だよね」
琴音はどこかわかっていたような、諦めたような顔をした。
何故そんな顔をするのだろう。気になった俺は琴音に問いただそうとしたのだが、琴音はゆっくりと首を振り、俺を制してきた。
「それじゃあやっぱり告白するんだよね。お互い好き合ってるんだもの」
「え、それは…」
それはさすがに早いんじゃ…実際に天華が俺を好きなのか分からないし…
俺が怖気づいていることを察したのか、琴音がいつものおっとりとした雰囲気を一変させ、天華のように目を釣り上げた。
「もう!ゆきくんは臆病すぎるよ!そんなんじゃ天華ちゃん誰かに取られちゃうよ!」
「め、面目ない…」
思わず謝ってしまうが、何故琴音に怒られなくちゃいけないのだろう…
俺がヘタレなのはとっくの昔にわかっているが、なんとなく理不尽に思ってしまう。
琴音はもう一度ため息をつくと、俺に話しかけてきた。
「ゆきくんは本当にしょうがないなぁ…なら、私も手伝ってあげるから告白できるように頑張ろうよ」
「…いや、いいよ。それはさすがに情けなさすぎるから」
琴音の提案は大変ありがたかったし、きっと以前の俺なら飛びついたことだろう。
だけど、西野の話を聞いた後の今は違う。
「俺、決めた。天華に告白してみるよ。琴音の言葉で決心がついた。ダメかもしれないけど、自分の力だけで頑張ってみる」
さすがにこれ以上琴音に甘えるのは、なにか違う気がしたのだ。
俺も自分を変えてみたいと思ったのだ。俺と同じ陰キャからリア充へとなった西野のように。
そして天華との関係も。
俺の言葉を受けて、琴音は驚いた顔をしていたが、やがてどこか嬉しそうな顔を俺に見せてくれた。
「そっか。ゆきくん、頑張ってね。私、応援してるから」
「ありがとう、琴音」
この笑顔を裏切ることはできないだろう。
俺は近いうちに天華に告白することを、胸に誓った。
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