新たな目標
「まだ着かないの?電波怪しくなってきたんだけど」「あと30分はかかるってさ。あ、お菓子食べる?」「Wi-Fi繋がってるといいなー」「うっぷ、気持ち悪くなってきた…」「大丈夫か?さすがに吐いたりするなよ…ほれ、酔い止めやるからもうちょい頑張れ」
俺たち1年3組の乗るバスの中はガヤガヤと賑わっている。
まだ目的地まで遠いというのに、みんな元気一杯だ。これが若さか…
俺にはあれほどはしゃげる元気は持ち合わせていない。
何故って?そりゃ友達いないからだよ。ひとりで騒げるなんてお調子者ポジションを確保してるか、空気の読めない痛い奴のどちらかだ。
まぁ実は全くいないわけでもないのだが、どちらにせよ陰キャにはハードルが高いことには変わりない。
だから行きのバスでも適当に音楽を聴きながら寝たふりでやり過ごそうと思っていたのだが…
「みんな楽しそうでなによりだね。浅間くんもそう思わない?」
「…ああ、そうだな。元気すぎるとも思うけど」
隣に座るリア充の体現者、西野が俺に笑いかけてきた。
人気者の西野はもちろんバスの席でも隣に座りたいやつで引っ張りだこだったのだが、同じ班だからとわざわざ俺の隣の座席に座ってきたのだ。
窓側の席を譲ってくれたからまだいいのだが、いろんな方向から西野に話しけてくるやつばかりでどうにも落ち着かない。
ここでイヤホンなど付けて彼をひとりにしようものなら、きっと顰蹙も買うだろう。
俺は仕方なく寝ることも音楽で暇つぶしすることも諦めて、合間を縫ってたまに話しかけてくる西野の相手をすることにした。
「うん、本当に良かったよ。やっぱりみんな仲がいいほうが嬉しいからね」
「そうかもな、お前のおかげで俺も助かったし」
本心からの言葉だったが、西野はそれは良かったと嬉しそうに笑っていた。
西野は俺みたいにひねくれてるわけでもないようで、素直に受け取ってもらえたらしい。
「まぁいい機会だし、浅間くんもみんなともっと話せるようになれたらいいんじゃないかな。ひとりでいるのが好きっていうなら無理強いできないけど」
「…善処する」
相変わらず西野はいいやつだった。
こんな俺にも気を使ってくれている。ほんとに同級生なのかと疑いたくなるが、琴音もこういう性格だ。俺がガキすぎるだけかもしれない。
そんなことを考えていると、前の座席から茶色い髪の女の子がひょっこり顔を覗かせた。
「宏太、ゆきっち。お邪魔するようで悪いんだけど、お菓子食べない?これ美味しいよ」
そう言って俺たちにお菓子の入った箱を差し出してきたのは天華の友人、砂浜みくりだった。
天華ととも俺たちの前の席に座った彼女は隣の天華に話しかけたり、他の男子をからかったりと車内の盛り上がりに一役買っているようだ。
いつの間にか俺もあだ名で呼ばれるようになったのだが、どこかの一万円に載っている偉人のようで少し不満だったりする。
ちなみに彼女も俺たちと同じ班なのだが…周りリア充ばかりとか、俺の存在ひょっとしなくても場違いじゃね?
差し出された箱と砂浜さんの顔を交互に見比べキョドっていると、西野が横から「それじゃひとつ貰うね」と言ってあっさりチョコレートをひとつつまみ上げた。
おいおい、そんなあっさり女子の食べ物とれるのかよ。リア充やべーな…
とはいえチャンスだ。俺も西野のイケメン行動に便乗させてもらうことにする。
「じゃあ俺も…」
「どうぞどうぞ」
…声、震えてないよね?
少し不安になりつつも俺はチョコを手に取り、そのまま口に放り込んだ。
見た目は若干歪だったが、もしかしたら手作りなのかもしれない。
砂浜さんには料理をするイメージがなかったから少し意外だ。
噛み締めるとほどよい甘さが口の中に広がっていく。
なんというか、普通に美味い。
「どう、浅間くん。美味しい?」
「うん、かなり美味かったよ。ありがとう、砂浜さん」
思わず顔を綻ばせる俺を見て、砂浜さんがニシシと笑い自分の席に座り直した。
(天華、良かったね。浅間くん喜んでたよ)
(そ、そういうんじゃないから!)
前のほうで天華と砂浜さんがなにやら話していたが、俺には聞き取ることができなかった。
「はーい、それじゃ整列してー」
「はーい、洋子ちゃん分かったよー」
ようやく目的地についた俺たちは担任の新任教師である宮藤先生の号令を受けて、軽く茶化しながらも素直に並んでいく。
「先生に向かってそれはないでしょ!」と怒っていたが、なんというか迫力はなかった。先生童顔だし。
点呼を受けて全員揃っていることを確認した後は今回の行事に関する軽い確認と説明を受けて、俺たちは各自決められた班ごとに集合した。
うちの班長はもちろん西野だ。
西野を中心に円が作られ、自然と視線も西野に集まる。
俺の右隣は西野だったが、左隣にいるのは天華だった。なんとなく緊張してしまう。
「それじゃあ今日は改めてよろしくね。至らないところもあると思うけど頑張るから、なにかあったら僕に報告してくれると助かるかな」
「宏太なら問題ないって。頼りにしてるよ」
そう言って西野の肩をバンバンと砂浜さんが叩いている。
その隣でブンブンと壊れた機械のように頷いているのは天華グループのひとり、東沙都子だ。
顔を真っ赤にして西野の顔を見つめている…うん、実にわかりやすい。
バスの時も俺が隣を獲得したことで、彼女に涙目ながらに睨まれていたのが印象に残っていた。
俺はなにもしてないのに、理不尽だと思う。
「僕も足を引っ張らないようにするね、あんまり自信ないけど…」
そう言って気弱そうに下を向くのうちの班で三人目の男子、佐山渉だった。
なにを隠そう、彼こそこの前俺に話しかけてくれた男子であり、俺の唯一の男友達である。
あれからフレンドを通じてそこそこ話す程度には仲良くなれたのだ。
今回の班で一緒になれたのは偶然だったが、正直すごく嬉しかった。
西野班は計6人。俺と佐山を除けばリア充ばかりが揃ったが、このメンバーなら俺としても楽しめそうだ。
決まる前まではビクビクしていたものだが、今は神様に感謝したい気分である。
それになにより…
俺は隣に立っている天華にチラリと視線を送る。
今日の天華は服装こそ学校指定のジャージ姿だったが、今は長い髪をまとめあげ、ポニーテールとなっていた。
いつもと違う髪型に、ついドキドキしてしまう。
(このオリエンテーションで、天華ともっと仲良くなってやるぜ…!)
俺は今回、新たな目標を掲げていた。
クラスメイトがいても天華に話しかけるという、高いハードルを設けたのだ。
佐山という友達ができたことで、ぼっちから一歩踏み出せたのだ。
もう俺はぼっちではない。成長できているはずだ…多分。
いや、弱気になっちゃダメだ。今ならやれる、俺ならやれる!
そんな意気込みを新たにする俺は、天華がどこか思い詰めた目で俺を見つめていたことに気付けなかった。
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