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二人の後を歩く私

「さて、どうしようかな…」


あれから数十分後、私は到着したモール内をひとり歩いていた。

一年生のオリエンテーションは林間学校であるらしく、一泊二日の合宿であると聞いている。

近隣の合宿所を借りてハイキングやディスカッション、夜はバーベキューを行い、主に集団でのコミュニケーションを高めるのが目的であるらしい。

まぁそれは学校側の建前で、私達学生としてはみんなで騒いで楽しめればそれでいいのだけど。


どうせ着ることになるのは学校指定のジャージになるのだし、ドラッグストアで虫除けスプレーや制汗剤あたりを買うのがベターだけど、せっかくここまできたのだ。それだけではもったいない。

適当にウインドウショッピングでもしようと思い、ファッションのフロアへと足を運ぶことにする。

暇つぶしと気分転換にはちょうどいいだろう。



フラフラと移動していると、あちこちから視線を感じ、私は野球帽を目深に被り直した。

芸能人でもあるまいし、わざわざこんな変装みたいなことをするのは自意識過剰のようで恥ずかしいのだが、客観的に見るとやはり私の容姿は目立つらしい。

あまり一人で歩かないほうがいいのは友達からも言われているし、ナンパもウザったいから私も極力控えているのだが、たまにはこうして羽を伸ばしてひとり歩きしたくもなるのだ。

いつも誰かと一緒にいるのは、やっぱりしんどいし。



今の私は雪斗と出かけるために準備した服装から着替え、青のスタジャンにレディースジーンズ。ツバ付きのキャップといったボーイッシュでラフなスタイルだ。

こういうあまり女の子らしさのない服装だと、男は案外寄ってこないので重宝しているのだが、それでも寄ってくる時は寄ってくる。

まぁ今のところ遠巻きに見てくるだけだし、万が一近づいてくるようなら適当な店の中に逃げ込めばいい。


そういう意味ではこのモールという構造はとても助かる。

嫌味な言い方になるのだが、私は自分が恵まれた容姿であることは自覚してはいるけど、別にそのことを喜んだことはなかった。

そりゃ悪いよりはいいのだが、何事にも限度というものがある。


出かけるたびに人目や貞操を気にしなければいけないのは顔を差し引いてマイナス要素が大きすぎた。

芸能界に入ることもよく勧められるが、これ以上猫を被るのはゴメンだ。

目立つことの喜びよりも辛さのほうが、私の中では比重が重かったのだ。


だいたいそれじゃあ雪斗と過ごす時間が減るし…今だって私をほっぽいてあそこでああして琴音と一緒に…


「……ってアイツがなんでここに!?」


思わず大声を出してしまい、ますます注目を浴びた私は身を縮めながら、二人が入っていったメンズ店の真向かいにある店に潜り込んだ。

なるべく目立たないよう影ながら二人の様子を伺うのだが、明らかに楽しそうな雰囲気である。

それこそ傍から見れば高校生カップルそのものだ。


「ゆ、雪斗のやつ、用事って琴音とのデートだったってこと…?」


信じがたいが、そうとしか考えられない。

アイツは私と琴音を天秤にかけて、琴音を選んだのだ。


(ゆ、雪斗のくせに!)


思わず頭に血が昇ってしまう。

そのまま二人のデートに割り込もうかと思ったが、僅かに残った理性が歯止めをかけた。


他の相手ならいざ知らず、相手は琴音だ。

雪斗が話しかけられる数少ない友達の一人だし、もしかしたら琴音がいつも家にこもっている雪斗を気遣って、モールまで連れ出したのもかもしれない。


「う、うん。そうよ、きっとそう」


私は必死に自分にそう言い聞かせる。

私以外の子が、雪斗と付き合えるはずがない。


雪斗はあんな性格だし、話だって面白くないし、そもそもオタクだし!


そう。だから絶対大丈夫…大丈夫な、はずだ。


(でも、琴音なら…)


それでも落ち着くことができないのは琴音だからだ。

あの子は本当にいい子だし、本が好きでもあるから雪斗のオタク趣味にもある程度理解がある子でもあった。


とはいえあんなかわいくて性格もいい子を、他の男子がほうっておくとも思わなかったし、わざわざ雪斗を選ぶこともないだろうと思っているのだが…



胸のざわめきが収まらない。嫌な予感が止まらない。

その根拠ともいえるのが、今こうして雪斗の服を琴音が選んであげていることだった。


(私が誘ったときは、あんなに嫌そうな顔をしていたくせに…)


あの時は過剰ともいえるほどに反発して、私と買い物に行くことを拒んだというのに。

琴音とは戸惑いながらも何着か選び、二人でレジに並んでいた。


琴音はどんな手品を使ったというのだろう。私でも、無理だったのに。


「琴音…そんなことないよね?」


知らず知らずそんな声が漏れたことにも、私は気付く余裕が持てなかった。




その後、私は買い物を終えた二人から一定の距離を保ち、ずっと後ろについて歩いていた。

幸いなことに気付かれてはいないようだったが、何度か必要以上に琴音に近づく雪斗を見るたび、飛んでいってアイツの頬を引っ叩きたい衝動を押さえるのに必死だった。


特に辛かったのは、お昼に入ったお店で琴音がスプーンに乗せたケーキを食べさせようとしたときだ。

思わず飛び出してそのスプーンをはたき落とそうとしたのだが、すんでのところで雪斗が拒否したのでなんとかなった。

雪斗のヘタレっぷりもたまには役に立つ。


とはいえ私としては二人のデート風景をずっと眺めることになってもうクタクタだ。

尾行というのは必要以上に体力を使うようで、寝不足気味でもあった私はもう限界に近かった。


それにしても腹が立つのはやはり雪斗だ。

私がこんな状態だというのに、今も琴音相手にヘラヘラしやがって…!


「……なんであんなに楽しそうにしてるのよ、アイツ…」


私は自分が出した声に驚いた。

てっきり怒りの声があがると思ったのに、口から出てきたのは寂しさを孕んだものだったからだ。


私は、寂しいのだろうか。


「そんなことない…」


そうだ、雪斗が私を見ていないだけで寂しいなんて思うはずがない。

こうして楽しそうな二人に話しかけられなくて、後をつけるだけの自分が惨めだなんて、そんなこと思っているはずがないんだ。


私は自分にそう言い聞かせて帽子を被り直し、また二人の後を追うのだった。

次も天華視点となります

その次は琴音視点の予定なのですが、やはり展開がゆっくりすぎるでしょうか

いろいろ迷っています


それはさておき今日もチャレンジします

評価ポイントできたらください

広告の下にポイント評価を付ける欄がありますのでよろしくお願いします


あ、無理はしなくても大丈夫です(・ω・)ノ

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― 新着の感想 ―
[一言] 高校一年生の男子です。 こういう物語を見ていると、なんだかとても気持ち良くなりますよ、自分は異常なんでしょうか? それはさておき、ここまで読んで、とても面白かったです。こういう感じの物語はあ…
[一言] 面白いと思いますが、作者さんもおっしゃっているとおりに展開が遅すぎると思います。
[一言] さてはて...雪斗がツンデレの本音に気づけない、だけならまぁ、雪斗がニブいから、だけと言えなくもないけど。このツンデレ、もといツンツン、自分の心情すらプライドで認められてないから、こんな状態…
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