チャットルームに待ち人来たらず
天華視点です
「よ、よし。送るわよ…」
私はゴクリと唾を飲み込み、震える指先でスマホの送信ボタンをタッチした。
すぐにその文章はディスプレイに表示され、ホッとした反面、緊張で今度はソワソワと落ち着かなくなる。
今日は日曜日で学校が休みだ。
時計の針も9時を回ったばかりで、午前中の今なら使える時間はたくさんある。
いつもならこの時間は部屋の掃除や勉強をしたり、友人から誘われたなら都合が合う時は遊びに出かけるのだが、この日はいつもの休日とは違っていた。
この前の金曜日、HRの時間でオリエンテーションの班決めが行われ、私と雪斗はなんと同じ班になれたのだ。
あいつはこういう行事には消極的だし、どうせ一緒の班とか無理だろうなと諦めていたのだが、西野くんが上手くやってくれたのだ。
しかもその後も上手く連絡先を交換する流れも作ってくれたし、彼に対する好感度はますますアップした。もちろん親愛のそれだけど。
その日の夜など喜びのあまり、興奮してつい遅くまで起きてしまった。
雪斗からの連絡がこないものかと待ちわびて、寝不足になってしまったのだ。
目にクマができてしまい、学校では連絡を寄越さなかった雪斗をつい睨んでしまったが、許されることだと思う。
西野くんは本当にいい人だし、仕事ができて気配りも上手だ。
そのうえイケメンとくれば、そりゃ女子もほっとかない。
他のクラスでも話題になっているくらいだ。
あれだけアプローチされてるのに、何故未だ彼女がいないか疑問なくらいの完璧超人である。
(雪斗も見習ってくれないかしら)
モテるところは見習わなくてもいいけど。
まぁそこは心配する必要はないだろう。
アイツがモテるとか、天地がひっくり返ってもありえない。
雪斗を好きな趣味の悪い女子とか、それこそ絶滅危惧種並に存在していないと確信している。
そんな雪斗をわざわざ私から誘って買い物に付き合わせてあげようというのだ。
私とデートしたいという男子はとても多いのに、冴えない雪斗を隣で歩かせてあげるということがどれほど名誉なことなのか、しっかり理解させてやらないといけない。
そのためにわざわざ今日は自分からアプローチ…もとい連絡を入れることを決行したのだ。
ほんとは雪斗からしてほしかったのだが、アイツは未だに私にチャットで挨拶も飛ばしてこないヘタレ野郎である。
もう期待はしていない。
…まぁ昨日のうちに約束しておくのが正解なのは確かなんだけど、それでも期待していなかったといえば嘘になるかもしれない。
おかげでお店が開く10時ギリギリのこの時間まで誘うことを引っ張ってしまったのだ。
まぁそれはいい。とりあえず私は伝えることができた。
あとは雪斗からの返事を待つだけなのだが…遅い。
もう10分は経っている。現代の高校生なら、大抵の子が手元にスマホを置いていているはずだ。
普通ならすぐ気付いて返事を返してくるのだが、まだ既読すらついていなかった。
(アイツ、寝てるんじゃないでしょうね…)
ちょっとイラッとしながら考え込むが、それはないだろうと思い直した。
雪斗の家は休日でも決められた時間にきっちり食事を取るタイプだ。
降りてこないと叩き起されるから、寝坊することもなかなかできないと以前ぼやいていたことを思い出す。
可能性があるとしたら二度寝だろうか。充分有り得る。
あのボンクラ雪斗ならやりそうだ。あとはゲームに熱中しすぎて気付かないとか?それもありそう。
「私を待たせるなんていい度胸じゃないの…」
ピキピキと額に青筋が浮かんでくるのを感じる。
怒りのままに次々と文字を入力していくも、それでも返事が返ってくることは一向にない。
時計の針が10時に近づいた時には、スマホを放り出して私はベッドに大の字でうつ伏せになっていた。
せっかく気合をいれてセットした髪もグシャグシャになったけど、どうでも良かった。
どれだけ綺麗になろうとも、見せる相手がいなければ意味がないのだ。
「馬鹿雪斗…さっさと返事しなさいよ…」
このままでは今日の予定は早くもおじゃんになりそうだ。
それでも一縷の望みをかけてもう一度メッセージを送ろうと思ってスマホに手を伸ばしたその時、短い着信音がスマホから響いた。
「き、きたっ!」
それを聴いて、頭より先に体が反応した。
いつもよりずっと早い反応を示した私の指は、すぐにスマホをタッチする。
そこに表示されていたのは望み通り雪斗の名前だったのだが、返ってきた言葉は私の望んだ返事とは真逆といっていいものだった。
(悪い、気付かなかった。今日は用事があるから買い物に付き合うのは無理だ。ほんとすまん)
…なに言ってんだ、こいつ。
それを見て、私の体はプルプルと震え始める。
分かっている。用事は誰にだってある。
それはしょうがない、しょうがないけど!
「なにが気付かなかったよ!この馬鹿雪斗!私を期待させるだけさせて待たせるとか、ほんと死ね!」
感情は納得してくれず、私は堰を切ったように怒りの言葉を吐き出した。
ふざけんな、私の時間を返せ!わざわざアンタのために早起きしていろいろ頑張ったのに!お昼のプランとかどんな店を回るかとか、予定をいろいろ組んでたのに!
そうして少しの間雪斗への愚痴をひとり呟いていたのだけど、頭の冷えてきた私は返事をすることにした。
(しょうがないから納得してあげる。いいわよ、ひとりで出かけるから)
(次は絶対付き合ってもらうんだからね!覚悟しときなさい!)
「…こんなものかな」
納得はいかないけど、文字の上では納得している矛盾した見せかけの文章を私は送った。
それを終えたあと、私はチャットルームを抜け出し、ため息をつく。
雪斗は謝ってくるだろうけど、それすらも見たくない。
謝るくらいなら、私と出かけてほしかったと思ってしまうから。
とはいえ用事があるならしょうがないと飲み込むしかない。
昨日のうちに確認を取らなかった私の落ち度でもあるのだ。
責めたところで私のほうに非があるのは明らかだ。
「しょうがないから出かけるしかないよね…」
雪斗にああいった手前もあるし、なによりこのまま部屋にこもっていたらますます落ち込んでいきそうだ。
みくりあたりは誘えばついてくるだろうけど、今はひとりでいたい気分だった。
雪斗以外と一緒に歩くのは、なんとなく気が引けたというのもある。
私はバッグを手に取ると階段を下りて玄関のドアを開け、誰もいない家を背にモールに向かって歩き出した。
ブクマと評価ありがとうございます
次回も引き続き天華視点です
夜にもう一度投稿できるよう頑張ります




