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謎を残して去る先輩

放課後になり、星峰さんの教室に向かう前にトイレへと向かった。


3分ほどして、トイレを出ると珍しい人物が待ち構えていた。

トイレの左ての壁にもたれ掛かる人物に声を掛けられ、立ち止まる俺。

「10分も時間をとらない。良いかな、涼更くん?」

「どうしたんです?引退した部活に関してですか、先輩」

「屋上で話したい」

彼女は俺が訊ねたことにこたえず、そう返してきた。

「良いですよ」

彼女の光が宿っていない瞳に凝視され、首肯して彼女が歩きだしてから二歩下がった距離を保ちながらついていく。


彼女──九条朋代は文芸部の先輩で引退した三年の女子で宮地先輩と深い関係を築いている、らしい。宮地の口からしか聞いたことがないので曖昧だ。口数が少なく、会話を交わしている場面を見掛けたこと自体あまりない。何ヵ月かに一度集まり、ミーティングらしきものであれど、口を開かないことが多い。


屋上に出て、彼女が中央辺りまで歩き、立ち止まったのに倣い、俺も同時に足を止めた。

彼女がぷわぁと振り返り、「すまなかった。後輩が迷惑を掛けて」と浅く頭を下げる先輩。

「えっと......ああ、宮地先輩のことですか?九条先輩が謝ることはっ」

唐突な謝罪に面食らい反応が遅れた。俺は慌てて頭をあげるように促した。

「文化祭で公開告白を踏みとどまらせられなかった。彼女にしても涼更くんにしてもあまりいい結果にはならないのは目にみえていたはずなのに......本当にごめんなさい」

そう言って深く頭を下げながら謝る先輩。

「もう良いですからっ頭を上げてくださいっ!目にみえてたって......」

「聞いてたの......涼更くんのことを。涼更くんを想ってのことだと思うから許してあげて、彼のことを」

「聞いてた?......彼って誰のこと、をっ──」

「責めるのは私だけにしてほしいの。力不足でごめんなさい......せめて話し相手にだけはなってあげて。彼女をよろしくね、涼更くん」

物憂げな表情が寂しげな表情に変わり、涙を浮かべ、去り際に涙が頬を伝っていた。

彼女が駆け出し、彼女が通りすぎる瞬間に彼女の涙が俺の頬に飛び、足もとに落ちた。


聞いていた?彼を許す?謎ばかりが浮上して、紐解かれずに消化されないままなのだろうか?


吹いてきた風に身震いし、屋上を後にした。








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