ウザかった女子の豹変に狂わされる調子
昼休み、教室を抜け、星峰さんの教室へと急いだ。教室には俺の居場所はなく、屋上で昼食を摂ることが増えていた。といっても冬の寒さに近い気温なのでそれほど外では居られないこともあるが本日は風も吹いておらず、陽射しがあり、彼女と昼食を摂ることになっている。
星峰さんの教室に到着し、教室を覗くと並志野さんの姿が見当たらなかった。彼女の姿を探していると星峰さんが俺に気付き、駆け寄ってきた。
「今日は私だけだよ。委員会で呼ばれてて、居ないんだ」
「そうなんだ。急ごう、星峰さん......」
「そうだね。早く済ませよっか、身体が冷えるから」
俺は彼女の手をとり、屋上へと向かう。
階段に差し掛かり、一段目を上がろうとしたら上がってきた女子に呼び止められ、足をとめる。
「涼更ちゃんじゃん!急いでるとこ悪いけど、ちょっといい?」
「俺じゃないと無理なのか?それ」
「うん。涼更ちゃんしか頼める人居なくて......あのこと、忘れてないよね?」
申し訳なさそうな声音を発したあと、声音を低くして、脅してきた女子。
「うっ......わ、忘れて、ない......星峰さん、さきにいって待っててくれないかな」
「えっ、う、うん......」
俺の動揺した様子に戸惑う表情を浮かべたが、すぐに頷き、階段を上がっていく彼女。
「......どうすればいい?那珂詩歌」
手に提げた大きな紙袋を俺に突きだす彼女。
「運ぶだけ、だよな?」
俺が訊ねたことに小さく頷き、小声でごめんと謝る彼女。
「こうでもしないと......引き留められない気がして」
と続けた。いつものパワフルさを感じさせない弱々しい声の彼女だった。
あのこと、とは文化祭の際に彼女を泣かせたことだ。
「そう、か......どこに運べば」
「三階の階段近くの空き教室......」
紙袋を受け取り、階段を上がり始めた俺に彼女は後ろをついてくる。
今の彼女には調子を狂わされる。
彼女に頼まれた頼まれ事を終え、教室を出ると、ほんとにごめんと弱々しく二度も謝られた。
「別に、気にしなくても......」
俺の返した言葉は彼女に届かず、彼女の後ろ姿が遠退いていく。
あんな彼女をみるのは初めてのことで戸惑いを隠せない俺だった。
以前は突き放しても平気そうに笑顔を浮かべてたくせにたった一度のあれだけのことで......謝ったんだけどな、彼女に。
あの頃と変わらないウザい奴だったはずが......あの頃と変わらず今のクラスの立ち位置も──。
待たせている星峰さんのもとへと駆け出した。




