文化祭編─文化祭一日目3~友達とまわる文化祭1
午後13時になる直前に店番を交代になり、午前中の店番だったクラスメートは、教室を出て行く。
俺が教室を出ていこうとしたら、菫と擦れ違う。彼女と視線が合ったが、すぐに逸らされ友達に声を掛けられていた。
廊下で待っていた嘉納さんに心配されたが、取り繕った笑顔を見せながら、歩き出すように促す。
「行こうか、夏乃さん。さきに昼食にしない?お腹空いてるでしょ、何を食べようか」
「う、うん......あのさっ、ううん。何でもない、焼きそばでいいよ。私は」
「焼きそばね、そうしよっか。着替えたんだね、クラTに」
俺と嘉納さんは、廊下を歩き出した。
「いくら私でもまわる時にメイド服は恥ずかしいよ。こういうときだけクラスの人は。都合いいよね、ほんとさぁ」
愚痴を明るく吐き出した彼女。
「それは言えてる。ほんとそれな、ったくよぅーっ!」
俺は、同意して頷き、吐き捨てる。
「聞かれた今度こそまずいよ、コウちゃんの場合」
「そうだけど......夏乃さんは仲良くしてくれるでしょ。それでいいやって割りきったんだよ、来年にはクラス替えもあるしね」
「その割りには、暗いよ。コウちゃんの顔......仲良くするけど、コウちゃんを助けられないよ。強い人間じゃないから、私......今だって」
階段に差し掛かる手前で、正面から走ってきた女子とぶつかる。
俺は、よろめいたが倒れる寸前に足を踏ん張り、倒れることはなかった。
相手の女子は、尻餅をついてしまって、痛みで顔を歪めていた。
「いたぁっ、いてぇよ......って、涼更ちゃんじゃん。ごめんね、ほんとっ!あれーっ、恋人と違うじゃん。隣の子と二股でもしてんの、勇気あるねぇーっ!」
小さく呻いたかと思えば、俺に気付いて謝る彼女。手を合わせた後で明るい声を弾ませ、グイグイと言葉を投げてきた。
よりによって、コイツに絡まれてしまった。
「二股じゃねぇよ。友達だよ、付き合ってないから。二股する勇気なんてねぇし、そんな勇気なんていらないわ!」
俺は、きつい口調で、立ち上がった彼女に返した。
「それならよかったぁ。それもそうか、涼更ちゃんにはそんなこと出来ないよね。あははっははっはっ!」
快活に笑い声をあげる彼女に、俺と嘉納さんはついていけずにいた。
「知ってんのに、二股って発想が出てくんのはおかしいだろっ!」
えへへ、と笑顔のままで頬を掻いて言葉を返してもこない。
「あっ!そうだった、駄弁ってる暇なんかなかったっっ!また後でぇーっ、涼更ちゃん!」
そう言い残し、駆け出すパワフル女子。
「......えっとぉ、誰なの?あの娘って」
嘉納さんを上回る元気な女子で、嘉納さんがドン引きになるほどの女子だ。
「同中だった奴。詳しくはちょっと......気を取り直して急ごっか。文化祭が終わった頃にして、ほしい......今は楽しみたい」
「......」
俺と嘉納さんは、階段をおりて、昇降口に向かう。
那珂詩歌とは様々な──ある。