文化祭編─尋常ではない姉の怯えよう
翌日。
部屋着を脱ぎ捨て、制服に着替え、扉を閉める。階段をおりて、リビングに入る。
「おはよう。美羽姉、何で起きてんの?」
「おはよ......っぎゃあぁぁぁー、出たぁっ、来ないでっ近寄らないで。呪われるぅぅー」
勢いよく椅子から立ち上がり、壁まで下がって、拒絶してきた。
俺は、つんざくような叫び声に、耳を塞ぐ。
「近所迷惑だってぇの!なんだよ、何なんだよ。その反応は?」
「近寄らないでってぇっ!昨日のコウじゃない、よね?」
「何言ってんの、おかしいよ。今にはじまったことじゃないけど」
「おかしいのはコウだからね!覚えてないの、昨日のこと?」
「何のことだよ、昨日はいつも通りだっただろ。頭でもぶつけたの?」
「ゾンビみたいにのそのそと歩きながら、念仏を唱えるみたいにぶつぶつ謝り続けていたでしょっ。めちゃくちゃ怖かったんだから。覚えてないの?」
「はぁー。いつも通り、美羽姉にただい......」
思い出そうとすると、もやがかかったようにあやふやだ。
それに、あやふやというより、菫の顔を見た直後の記憶がないことに気付く。
「ああぁ。ごめん、覚えてない」
「怖い、怖すぎるよっコウ!憑かれたよ、絶対それっ!お祓いだっけ、連れていってもらいなよ、今すぐっ!」
「違うでしょ、憑かれてないって。大袈裟だって、美羽姉は」
近付こうとするが、拒絶する姉。
「憑かれるから、来ないでって!」
「行かないよ。落ち着いてよ、そろそろ静かにしてほしいんだけど。鼓膜破れそう」
おそるおそる椅子に座り直す姉。
尋常ではない姉の怯えように驚く。
姉が同じような行動をしていたら、姉以上に怯えるかもしれないと、今さら思う俺だった。




