文化祭編─幼馴染みと会話
文化祭の準備が終わり、昇降口を出てすぐの壁に菫が寄り掛かっていた。
切ない表情をしながら俯いていた。
辺りが真っ暗なのに、表情がはっきりとわかっていた。
一瞥して、通り抜けようと歩きだしたところで、菫に呼び止められる。
「コウ、いいかな?ちょっと」
俺は、足をとめ、返事をする。
「いいけど。何だよ、フラれたのか?先輩に」
「違う。一緒に帰るの断って、コウを待ってたの」
「ふーん。気にしてんの、俺のこと?」
「そう......だよ。気にしたら、心配したらだめなの?仕方なかったの、好きだったんだもん。先輩のことが......」
菫の声が小さくなっていく。
「もういいから。何が聞きたいんだよ」
「変わったね......コウ。振ったからそんなに冷たいの私に」
「違うからっ。お前が振った俺に頼んできたことだよ。わからねぇの、お前はっ!」
つい、大声で荒らげてしまう。
拳が震えていた。
最悪だな、俺。
そう思っても、言わずにはいられない。
傷付けると知りながら、俺は続ける。
「好きだった奴が他の奴に取られたんだよっ、呆気なく。わかってるよ、俺がお前の頼みを断れば、お前の恋愛は終わってたかも知れない。けど、断れなかった。無理だった。俺が悪いっ!そんなのわかってるっつーの。取られる相手に手を貸した、失敗を願いながら。醜い奴だって自覚してるよっ!俺はぁ、おっれぇはお前のこと──」
俺が想いをすべて吐露して気付く。気付いてしまう。
菫は、大粒の涙をボロボロと流しながら、
「──ごめん、コウ。ごめん、コウ。ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい──ごめんね、コウ。私が悪かったよ」
謝り続けていた。
泣きじゃくり、嗚咽混じりで。
後悔が俺を襲い、何が何だかわからなくなっていった。
目の前で、可愛いはずの顔を涙や鼻水でぐしゃぐしゃの顔で泣きじゃくり、嗚咽混じりの彼女──三条菫をみることができなくなる。
言葉が出てこない、どんな声を掛ければいいのか、思考できず、いつの間にか、力なく歩きだしていた。
気がついたときには、ベッドに横たわっていた。
記憶がすっぽり、ない。どう帰ってきたのか、赤信号で足をとめた回数すら、覚えていない。
身体の所々が痛むのに今さら気付いた。




