夏休み─クラスメートの過去
翌日。
昨日いた喫茶店。
俺の正面には嘉納さんが椅子に座っている。
星峰さんは同席していない。用事で学校にいる。
俺がなぜ嘉納さんと喫茶店にいるのかというと──。
昨日のカラオケ店で星峰さんが歌ってるときに嘉納さんに耳打ちされた。その瞬間を星峰さんに見られていて、その後に星峰さんが怒りがこもった言葉を投げつけられた。その様子を嘉納さんが爆笑しながら見ていた。
嘉納さんに言われたのは、喫茶店で話がある、の一言だった。
「コウちゃん、昨日歌ったボカロ曲覚えてる?」
「覚えてるけど、それが関係あるから聞いてきたんだよね。夏乃さん」
いつもの可愛らしい声ではなく、少し低い声の嘉納さん。
「もっち~ろ~んっ。あのボカロ曲、気に入ってるんだ。とても歌詞が響いてさぁ。私さぁ、前までこんなじゃなかったんだよね。高校デビューは、うまくいったと思うんだけどなぁ~」
いつも通り振る舞っているように見えるが、少しかげが見えた気がする。
俺は、相槌をうつことができなかった。いや、してはいけない気がした。
「何がいけなかったんだろー。やになっちゃう、前の私はさぁ、いじめられてたんだよね。酷いときは──」
嘉納さんは目を細めて、懐かしむような声音で過去の話をうちあける。
聞いていて、胸が締め付けられた。聞いてられないほどの内容だった。今のつくっているキャラの話も話してくれた。
「──このままでいいかな?コウちゃん」
「夏乃さんが無理なら、続けることはないと思う。皆に嫌われようが、俺は夏乃さんを嫌いになんかならないから安心して。少し......言うなら、俺に話しかけてきて仲よくしすぎたのがいけなかったんだろうな。クラスメートにとっては。クラスメートと同じように弄ってたら、悩むことはなかったの......かも。俺に対して、夏乃さんの今の接し方がよかったから、夏乃さんと今の関係があるんだよ。ありがとう、夏乃さん」
「コウちゃん、ありがとう。ほんと、ありがとう」
彼女は、溢れ出す涙を手の甲で拭う。
俺は、彼女の背負っていた重いものを少しは軽くできたのかな。ああぁ、なんでこんなこと起きるのかな。
その後は、楽しい会話で笑い合う俺達。