三条菫を襲った悲劇
三条菫は酷い目に遭っていました。
この先、彼女はどうなるんでしょうね……
私はカフェで一人の男子大学生と向かい合って座っていた。
「菫さん、どうかな……?」
「付き合っても……良いよ、私は」
「ほんと?」
「……うん。でもエッチなこと……強要しないことを約束してほしいの」
「ボクは菫さんが嫌がるようなことをしないよ。神に誓って、しない」
テーブルに置いていた右手の甲に彼が左手を重ねた。
私は繋牝東輝と別れた後、高校時代に恋人を作れず卒業を迎えた。
大学に入学し、二ヶ月程経った頃に、一年先輩の加藤という男子大学生にサークルに勧誘され、睡眠薬を飲まされ——起きた時には既に手遅れだった。
親と関係が拗れていた私は、相談も出来ずに泣き寝入りするしかなかった。
友人は……泣き崩れる私をただ背中に腕を回し摩ることしかしてくれなかった。
私は……私の悲劇は幼馴染の涼更鴻汰の告白を振って、先輩と交際したことに起因すると思った。
瞳に映る設楽貴博の背後の窓硝子の向こうは小雨が降っている。
「どうしたの、菫さん?」
「あぁ……いえ、何でもないんです」
無言で微動だにしない私に首を傾げ、聴いた設楽だった。
どうせ、私の前で柔和な笑顔を浮かべた彼も私を欺すのだろうと諦めてもいた。
「それじゃあ——」
設楽が強張らせた声を発しようとした刹那、私のスマホが着信を告げた。
スマホの画面には、加藤と表示されていた。
あぁ、この時機でか……とため息を吐きたくなる。
あの穢らわしい獣の耳障りな声を今聞かなければならないのだった。
私は加藤との通話に出て、30秒も経たずに通話を切る。
「どうしたの、顔色が悪くなったけど?菫ちゃん、大丈夫?」
「え、ええ……私は平気。連絡先を交換しましょうか」
「そうですね、しましょう……」
私は設楽と連絡先を交換し、10分程の談笑を終え、カフェを後にする彼の背中に手を振り、別れた。
私は彼が置いていった代金を握りしめ、レジで会計を済ませ、カフェを出て、傘を開き、歩き始めた。
私は卑劣な加藤が住むマンションに赴く。
足どりは重かった。
すれ違った母と息子の親子が笑い合っているのを見て、毒付いていた私だった。
加藤からの催促の連絡が来て、短いやりとりを交わし、切る。
私は加藤みたいな獣に騙されたんだろうと幾ら後悔してもこの苦しみと辱めは薄らぐことはなく、光りを見ることなく、人生を終える事を悟った。
私は幼馴染の涼更鴻汰を選んでいたら、この地獄を味わう事もなく、生きていけたのだろうか……
私は彼を振って、この苦しみを味わう事で罰せられているのかもしれない……と嘆き、加藤に壊されにマンションへと脚を踏みだす。
コウは今の私を見たら、どんな顔を、どんな瞳を、私に向けるのだろう。
三条菫が味わう地獄を知らずに涼更鴻汰は恋人との幸せな日々を過ごしていた。
彼女に手を差し伸べる救世主が現れたのか、救世主は現れずに地獄で生き続けたのかは——高校で関わった人間は知らないのだった。