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番外編—恋

店内のBGMはクラシックが流れており、落ち着いたカフェでいつまででも居られる程の居心地がある。

私の正面——カウンターを挟んだ厨房のスペースでコーヒーミルのハンドルを回して、コーヒー豆を挽いている溝端浩貴を見つめながら、ブルーマウンテンが注がれたカップを傾け、慣れない苦味に顔を顰める私。

「苦手なコーヒーを頼まなくても良いんだよ、紅莉。バナナジュースだったり、好きなの頼みなよ。別にオレと合わせることないんだって……」

顔を顰めている私に、柔和な笑みを浮かべながら呆れたように発した溝端だった。

「うんー、まぁそうだけど。バナナジュースは子供扱いしすぎでしょ、幾ら何でもさぁ〜浩貴くん。浩貴くんとコーヒー飲めたら良いなぁ〜って思うし……ちょっと慣れたいって話しぃ〜!」

「まあ、そういうのは憧れるけど、無理にコーヒー飲もうとしなくても嫌いにならないよオレは。紅莉ってそういうとこあるよね〜」

「そういうとこって何さぁ〜浩貴くぅ〜ん?」

「そういうとこはそういうとこだよ、紅莉。受験勉強の息抜きが長くない、紅莉。そろそろ——」

「またはぐらかしたぁ、もう浩貴くんってば不利になるといっつもじゃ〜ん!親みたいなこと言わないでよぅ、浩貴くんは彼女と居ないと寂しいって気分になんないの?私はなってるのにっ!」

私は頬を膨らまし唇を尖らせ、普段より僅かに声を低くして不貞腐れた。

「ちょっとバイト先でそんなふうにしないでよぅ、紅莉ってばぁ。いくら少ないからってやめてよ、もう……ぁ、紅莉が居ないと寂しいって気分になるよ、オレも」

彼が後半の言葉を照れくさそうに周囲の客には聞こえないように呟いた。

「でしょ〜!私を早く帰そうとしてるのは、ナツミさんと話してるの邪魔されるからでしょ、浩貴くん?でもさ、彼女が嫉妬しないなんて浮気してるでしょ。そうじゃない、浩貴くん?」

「うっ……高坂さんは先輩で、オレなんかを食事に誘ってくれる……別に」

「ねぇ、浩貴くんちょっと。私のこと、好きぃ?」

私は彼をカウンターへ上体をのりだすように促し、耳許で囁くように聴いた。

「はぁんッ……も、もちろん紅莉のことは大好きだよ」

彼は耳許で囁かれたのが耐えられずに短く喘ぎ声を漏らし、聴きたい言葉を続けた。

「ふふん〜ありがと。私も浩貴くんが大好きだよっ!」

私は上機嫌に声を弾ませ、溢れる彼への想いを告げる。

「はぁ〜んんッッ!相変わらずな二人で羨ましいわねぇ〜もうぅ!!」

右の二席挟んだカウンターチェアに腰掛けたネイビーのエプロンを掛けた肥えている主婦が、両頬を両手で抑えながら黄色い悲鳴をあげた。

「……すみません、横田さん」

「すみません……」

「いいわよぉ、謝らなくても。旦那とは冷めてるけど、溝端くんと恋人さんのを見てると微笑ましくて良いの。ここに通ってて、面白いものがみれて楽しいのよ」

彼の謝罪に私が続けて謝ると、横田と呼ばれた主婦が顔の前で片手を振って首を左右に振って、口許を押さえて人当たりのいい返答を返した。


私は恥ずかしくなって、溝端がバイトを終える前にカフェを後にした。

炎天下の外は、冷房の効いたカフェでの引いた汗を噴き出させる。

私はハンカチで顔に浮かぶ汗を拭いながら、帰宅する。

高校三年の夏休みの8月上旬の平日、13時34分の外はうだるような暑さに顔を顰めずにいられなかった。


高校二年の10月下旬から交際を始めた溝端浩貴(みぞばたひろき)は大学生で、男性として初めて結婚したいと思えた人物だ。

溝端はどこか幼馴染の漆原勇海に雰囲気が似ている。


まぁ、キスは既に済ませており、あとは——に及びたいが、高校を卒業するまでお預けである。


私は左腕の手首に嵌めているブレスレットを撫でながら、数時間後に再び逢う溝端を想いながら、自宅までの帰路を歩み続ける。


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