最期のデート3
スマホで時刻を確認すると、既に17時を過ぎている。
視線の先の車窓からは陽が沈みきらず、オレンジに染まる景色が流れていく。
座席の背凭れに身体を預け、コクコクと頭を前後に揺らす九条が可愛く思える俺。
無防備な九条の寝顔は可愛く、つい触れたくなる。
腕を彼女の顔に近づけ、触れる直前に思いとどまり、腕を引っ込める俺。
向かいの座席にはカップルらしき男女がいちゃついている。
カップルを見つめていると九条が恋人になった世界線もあったのかな、とありもしない妄想が脳内に満たされる。
ああぁ、馬鹿だな……俺。
髪を掻きむしって、ため息を漏らした。
「さぁくぅんっ……」
彼女の寝言にも感じるような声にドキッとし、彼女に視線を移すと欠伸をした直後の眠たげな彼女の顔があった。
「もう起きたんだ」
「うん……今日は私に付き合ってくれてありがとう。楽しかった、すっごく!最期にさぁくんと楽しい想い出が作れて幸せだよ。私は遠くに行っちゃうけど……恋人と幸せになってよ。また再会した時に惚気話でも聞かせてよ。昔話なんかで華を咲かせちゃったりもしようよ。また逢う日まで……これが最期の別れになるなんてことのないように頑張ろうね、お互い。約束だよ、さぁくん」
微笑みながら小指を俺に向け、指切りを促す彼女。
彼女の小指に小指を絡め、指切りをしながら力強く頷いた。
「うん。約束する!俺も楽しかったよ。おねぇちゃんと……デートできて。ありがとう、おねぇちゃん」
九条の頬に涙が伝う。
最寄駅まであと二駅……
最寄駅に電車が停車し、降車する俺と九条。
改札を抜け、駅を出て、俺らは向かい合う。
「ほんと、楽しかったよ。じゃあ、またね……さぁくん」
「ありがとうございました、おねぇちゃん……また、いつか」
遠ざかっていく九条の後ろ姿を見送り、喪失感が押し寄せるのに堪えきれずにその場に膝から崩れ落ちる俺。
憧れには近付けず、触れられないのか……もう。
——憧れは、いつまでも憧れで……色褪せないものなんだよ、おねぇちゃん。
——またね、俺の憧れ。
——再会したら……昔みたいに、俺の手を取って光が差す世界へと。
《終》