番外編—再会
高校に入学し、四ヶ月が経った夏休みの中盤——うだるような暑さに堪えながら、部活を終え、額に浮かび流れる汗を手の甲で拭いながら帰り道を歩いていた。
照り付ける真夏の陽射しに体力を奪われ続け、注意力も散漫になっていて、背後から声を掛けられたことにより、相手の存在を認識した。
「あのっ……この辺に涼更さんのお宅があるはずなんですが、知りませんか?」
……ふぇ?
背後から声を掛けられ、振り返るとラフな出で立ちでショルダーバッグを斜めに掛けた高校生らしき男性が立っていた。
「えっと……この辺に住んでる住民かと思って尋ねたんですけど、違いましたか?」
「あっ……いや、近所に住んでます。いきなり声を掛けられたので、驚いてしまって。どのような用件で探して見えるんです?その……」
「涼更さんのお宅には、そのぉ……俺と同い年の子が居て、えっと、幼馴染なんですけど……紅莉って言って——」
「さぁくん……?勇海……漆原、勇海くんなの?」
男性の言葉を遮って、呟いた。呟いて、思わず訊ねた。
「えっ……?紅莉、なの……か?……あぁ、勇海だよ。ごめん、気付けなくて。久しぶり、紅莉」
動揺していたが、すぐに以前浮かべていた笑顔で挨拶をする彼。
「そうだよ、私。久しぶりだね、ほんと。あれ以来、何も送られてこなかったから心配で……その、ごめん」
「お互い様だし、良いって。約束……守れなくて、ごめん。でもっ……いや、色々あって。こんなところで話すのはあれだし……」
「そうだね。ついて来て、勇海くん」
「うん」
私は彼を自宅まで案内した。
彼に上がるように促し、リビングに通した。
キッチンで飲み物と適当なお菓子を用意し、ダイニングテーブルへと運んだ。
リビングを見渡している彼に座りなよ、と促しながらダイニングチェアに腰をおろした私。
「……うん。ありがとう。好きだったっけ、これ?」
出したお菓子を手に取り、訊いてきた。
「最近食べるようになったの。それで、あれからどうしてるの?教えてよ、勇海くん」
「そうなんだ。くん付けはやめてよ、紅莉。あの頃みたいに……」
「ごめん」
漆原勇海は幼馴染で、中学二年の夏休み直前に転校して、それ以来会えずにいた。
彼とは幼稚園に通っていた頃に出会った。休日に近所の公園に父と行ったら、砂場で遊んでいた彼が居て、一緒に遊ぶようになった。その際に、彼の母親が彼をさぁくんと呼んだのと同時に父が反応した。
「九条先輩……」と呟いた父がベンチから立ち上がり、彼の母親のもとに近付いて行き、二言三言言葉を交わすと、満足したようにベンチに戻っていった。そのことを、今でも鮮明に覚えている。
父が母以外の女性と話すことは滅多にないことなので、珍しさのあまり記憶に残っている。
彼の母親は漆原朋代で、旧姓が九条とのことだった。高校の二学年上の先輩が彼女だった。