最期のデート1
春休み——初日にあたる終業式の翌日、午前7時30分には自宅を出て待ち合わせ場所の駅へと自転車に乗り向かう。
俺が駅に到着すると、既に九条の姿があり駐輪場に自転車を置き、彼女の元へと駆け寄る。
「おはよう、さぁくん」
「おはようございます、九条先輩。待たせてしまってすみません……」
俺は彼女に挨拶を返し、待たせたことを頭を下げながら謝る。
「頭を下げるほど、そんな待ってないから良いよ。行こう、さぁくん」
「……はい」
待ったことは否定しないんだ、九条……
切符を購入し、改札を抜けホームに出て、電車がくるのを待機する。
午前8時過ぎの駅のホームには片手で数えられる人数がいるだけだ。
春休みだろうと田舎なのでさほど混むことはないようだった。
電車に乗り込み、座席に腰を下ろした彼女の隣に腰掛けた俺。
揺れが激しめで快適な乗り心地とはお世辞にも言えない。電車通学ではない俺からすれば新鮮だと言える。
「最後の別れがあんなんだとしっくりしなくて……」
「つい、涙がこみあげてきて……九条先輩より先に泣いてしまってすみません、ほんと」
「ううん……さぁくんの想いが伝わったよ、改めてありがとう。先輩なんていいから、あの呼び方にして……最後だからさ」
「はい……おねぇちゃん。えっと、似合ってるね」
「ありがとう、さぁくん。スカートにしようかと思ったけど、やっぱり……その代わりっていうか、短めの丈にしてみたんだ」
彼女が着ているのはトップスがブルーストライプのボーダーTシャツで、ボトムスがショート丈で膝上のデニムのキャロットパンツだ。
「懐かしい感じ……可愛い」
片手で口許をおさえ、感想を発した俺。
「短い間だったけど、楽しませてくれたお礼で……餞別も兼ねたの」
「せんべ、つ……今からどこに行くの?」
「近鉄パッセだよ」
「名古屋っ!?そんな……えっと、お金持ってないよ、そんなに」
「私が出すから気にしなくて良いよ、さぁくん」
「でもっ……デートっていう体なんだよね、今日?」
「いいのいいのっ!私がだしたいの、さぁくんは気にしなくていいんだよ」
「うっうん……」
降りる駅で降車し、乗り継ぎ、近鉄名古屋駅に電車が停まり、ホームに降りる俺と九条。
改札を抜け、近鉄百貨店名古屋店の本館へと歩き出した彼女の後をついていく俺。
本館を出て、外に出ると彼女が腕を俺の腕へと絡ませて再び歩き出した。
「えっちょっ——」
慌てふためく俺に構わず、歩き続ける九条。
彼女が足を止めたのは109シネマズ名古屋の前だった。
「映画を観るの?」
「うん。笑えるジャンルじゃないけど、さぁくんと観たい映画でさ。嫌かな、さぁくん?」
「嫌じゃないけど。何てタイトルなの?」
「——何だけど……」
「それ、観たかった映画だ。でも、それってデートで観るのじゃない気が——」
「駄目なの、さぁくん?」
「駄目じゃ……観たいです、おねぇちゃんと」
九条に迫られ、断りきれずに俺は、二人で映画を観賞することに。
映画館を出た俺と彼女の顔には泣き腫らしたアトがくっきり出ていた。
書ききれてないので続きます。