こんな楽しいホワイトデーは初めてだよ
3月14日、ホワイトデーの17時過ぎでも辺りは夕陽が沈みきっておらずに朱色に染まっている。
3月に入り、一気に春めいた気温に移り、寒さは薄れていた。
星峰家にお邪魔しており、星峰さんの部屋にて二人で寛いでいた。
フローリングに敷かれたラグに足を崩して座る俺らは、恋人同士のいちゃつきに興じていた。
バレンタインデーのお返しにと、手作りクッキーを渡した。
彼女は受け取るも突き返し、恥ずかしそうに頬を膨らませ拗ねながらボソッと呟いた。
「……食べさして、よぅ。バカ鴻汰」
「あぁ、うん……」
お互いで恥ずかしがり、俯く。
3分ほどの静寂が室内を包み込み、堪えきれなくなった彼女が聞こえるか聞こえないかという声量で恥ずかしがりながら、「はやぁくっ……」と急かした。
「うっうんっ……」
俺はクッキーを手に取り、彼女の口許にクッキーを摘まんだ手を近づける。
彼女が小さく口を開け、クッキーを齧る。
「美味し……っ。じっと見ないでっ……鴻汰のばかぁ」
クッキーを味わう彼女がリスのような愛らしさのあまり見つめ続けていた俺に、彼女が片手で顔を覆い、照れる。
「ばかって……香が可愛すぎて、ついだよ。ありがとう」
「もうぅ〜っ!鴻汰ってば、またぁ……調子のりすぎぃ」
太ももにのせた両手を握りしめ、照れながら拗ねて、握り拳でポコポコと俺の胸を叩く。
「そんなつもりじゃないよぅ〜香ぃ。機嫌直してよ」
「じゃあ……抱きしめて。後ろから」
俺は彼女の要求に応じて、彼女の背後に座り、優しく彼女を抱きしめた。
抱きしめられた彼女は俺の手にそっと触れて、「ありがとう、鴻汰……」と今にも寝てしまいそうな声音で感謝を告げた。
俺の方こそ、ありがとう。
俺はそう胸の内で呟き、彼女の寝顔をそっと覗き込み、見つめる。
こういうひとときを、ひとときの幸せを——来年も、再来年も感じられるのだろうか……