あなたに出逢えて幸せでした
校庭を囲むように植えられた桜の樹から桜の花びらが風にのり、舞っている。
息を切らし、校庭に足を踏み入れると、九条が校舎を背に吹いている風にのり舞っている桜の花びらを見つめ、佇んでいた。
「九条先輩っ!待たせてすみません……ご卒業おめでとうございます、九条先輩。お似合いです、その……」
「さぁくんっ……ううん。ありがとう、涼更くん。コサージュだよ、これ。そう言って貰いたくて、外さなかったの。嬉しい……ありがとう、涼更くん」
ブレザーの胸元に付けられた花に触れて、花の名称を教え、その後にはにかみ感謝を告げた彼女。
「そのっ……幸せになってくださいっ!俺よりも生きていくのが上手な先輩なら、きっと大丈夫だと思いますけど、遠くから祈ってます。俺に手を差し出して救ってくれたり、不安にさせまいと気遣ってくれたり——してくれてありがとうございます。悲しいですけど、寂しいけどぉぅぅ……っあぁりがとうぅございます、九条先輩。好きでした、いや……好きです。だいすきですぅぅ……俺も今まで言えなかったこと——打ち明けます。ほんとは……先輩に隣に居続けて欲しかった、んです……群れの中でひときわ素敵な笑顔をしてた先輩が憧れで、近づきたくても先輩の周りにはいつも誰かが居て……先輩の笑顔をずっと見たくて、先輩の隣にずっと居たくて、陽だまりで寝ていけるような優しい声に触れていたかった。先輩の頼れる手にしがみついて、呆れたような笑顔で頷いて頭を撫でてくれてたあの日々が宝物で……」
泣きじゃくりながら打ち明けられずにいた想いを吐き出す俺に、彼女も感極まって、涙を流して手の甲で溢れ出す涙を拭い、洟を啜る。
「さぁくん……なん、で、なんで今……」
俺と九条は向かい合い、桜の花びらが風で舞い散る校庭で顔をくしゃくしゃにしながら別れを惜しむ。
涙を流さず、笑顔で新たな門出へと向かう九条朋代を送り出そうと決めていたのに……
涙が溢れ続け、瞳が上手く彼女を捉えることができない。
彼女との別れを、こんな最期にしたくなかったっていうのに……




