貴方の想い出で埋め尽くされ、泣いちゃうよ
三月上旬の一週の金曜日、卒業式を迎え——彼女の旅立つ姿を瞳がとらえた瞬間に視界が歪み、涙が頬を伝った。左隣に座るクラスメートから呆れたような引いたような声音で呟かれた。
「なんで涼更が泣いてんだよ」
「……っ」
感極まった俺は、呟いたクラスメートに否定も肯定もせずに堪えていた嗚咽を小さく漏らした。
涙を流した瞬間は言わずもがな、九条が担任に名前を呼ばれ卒業証書を受け取りに壇場にあがったタイミングだ。
ズボンに落ちた涙で黒い染みは広がり、濡れていく。
あぁ、もう会えないのか……
両の手で掬っていた筈の幸せが掌の隙間をすり抜けて、腰まで浸かる水面へぽちゃりと音をたてながら落ちた光景が脳内に浮かぶ。
※※※
卒業式を終え、体育館には卒業生や卒業生の保護者、来賓の方々、卒業生のクラスをうけもつ教師以外の関係者が取り残されていた。
教師の指示で卒業生やその保護者、来賓の方々が座っていたパイプ椅子を片付ける在校生。
余韻もクソもないなと、パイプ椅子を片付けながら胸中で毒づいた俺だった。
片付けている最中にポケットに入れていたスマホが震えた。スマホを手に取り、確認すると一件のメールが届いておりメールに目を通す。
内容は、
『見送りが終わったら、校庭に。待ってる』
というものだった。
※※※
在校生が昇降口から校門まで続く道の両脇で列を成し、拍手で卒業生を送り出すのを終えて、在校生にとっての卒業式という行事が終わりを迎えた。
俺はSHRを終えた教室を飛び出し、校庭へと駆けた。
九条朋代のもとへ——
番外編と言っていましたが、番外編より先にこちらを書いておきたくこうなりました。
まあ、卒業式シーズンですのでセーフですかね。
次話はこの続きです。
いやいやぁ〜もう残り四話くらいかぁ……長いことお付き合いくださりありがとうございます。
ホワイトデー、番外編、細々としたものを予定しておりますので最後までよろしくお願いします。




