何でも似合う彼女
放課後。
俺は、星峰さんとは一緒に校舎を出なかった。バイト先に早く向かわないとだめとのことで、さきに出ていった。
少し遅めに出ていく俺。星峰さんのバイト先であるドリームビートは確かに距離があった。近くの駅に向かい、電車がくるのを待った。ベンチで座っていると、他校のカップルがいちゃついているのを見かけた。前までは羨ましいと思っていたが今は何とも思わなかった。
電車が滑り込んできた。電車に乗り込む。
二駅通り過ぎて、電車を降りる俺。
少し歩いていくと、ドリームビートの看板が見えてきた。
扉を開けると、落ち着いた挨拶が聞こえた。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「一人です」
「こちらへどうぞ」
二人掛けの席に案内され、俺は座る。
すぐに注文を伝える。
男性は厨房に消えていく。
すぐに星峰さんが厨房から出てきた。
「涼更君、どうかな」
照れながら、尋ねてきた星峰さん。
青のチェックシャツを着ていて、イージースカーフをつけている。ショートエプロンをつけている。
星峰さんにとても似合う制服だった。
「似合ってるよ、星峰さん。可愛いよ」
「えへへ。ありがとう、涼更君。嬉しい~」
彼女の頬がゆるみきっていた。
「お待たせしました──」
先程の男性が注文したのを持ってきて、テーブルに並べる。
「星峰さん、彼氏なのか?」
「あっ、はい。彼氏の涼更君です」
「ええー、そうなんだ。星峰さんは可愛いから付き合ってるとは思ってたけど......」
男性は何か言いたそうな顔を俺に向ける。
「佐仲さん、涼更君にそういう顔しないでくださいっ。ルックスだけが重要じゃないんです。涼更君はとても優しくて、いい彼氏なんです」
「ごめん、星峰さん。そんなに怒らないでよ。もうしないから、機嫌直してよ」
「もう、最低です。佐仲さんを信じてたんですよ。ふんっ」
頬を膨らませご立腹の星峰さん。
「星峰さん、俺は大丈夫だから。許してあげて」
「涼更君はほんとに優しいね。涼更君がそう言うなら......」
「ありがとう、えっと、すず......」
「涼更です。良いですよ、佐仲さん。星峰さんに怒った顔は似合わないよ。笑顔でいてほしいんだ、星峰さんには」
「あっ、ああ、ありがとう。涼更く~ん、ずっと一緒にいたいよ~」
みるみる笑顔に変わっていく星峰さん。
感極まった星峰さんが横からくっついてくる。
佐仲さんが、ああ、ははぁと苦笑いを浮かべていた。
「えっと。草加部さんに言っとくから、今日は早めにあがっていいよ。星峰さん」
「良いんですか、ありがとうございます。佐仲さん」
俺と少し話してから、戻っていく星峰さん。
俺以外にも客は数人いた。
7時20分になり、制服姿の星峰さんがきて会計を済ませる。
「ありがとうございました。またのお越しをー」
俺は、星峰さんと手を繋ぎながら喫茶店を出る。
「あのさ~、涼更君。私のわがままを聞いてもらったから、お礼がしたいの」
「わがままなんかじゃなかったよ。お礼って?」
「私の家でご飯を食べていかないかな~って」
「良いよ。そんなことまで、まだ早いよ。星峰さん」
「そっかー」
しょんぼりする彼女。
「もう少し、付き合ってからで良いんじゃないかな」
「分かったよ、仕方ないなぁ」
何とか分かってくれた、星峰さん。