よりによってあの日の出来事を夢でみるなんて
俺が帰宅するとリビングには姉もおらず、静寂だった。
近所のスーパーや飲食店が開店もしてない時間帯なので、誰かの家で一泊でもしているようだな、と思いながら自室に向かった。
俺は、着ていた服をフローリングに脱ぎ捨て、部屋着に着替えて、ベッドにダイブして眠ろうと瞼を閉じた。
すぐにうとうととし始めて、眠りについた俺だった。
※※※
「あの……鴻汰くん。私のお願いをきいてほしいの。きいてくれないかな」
部屋の中央で立ち止まって、振り返った那珂詩歌が勇気を振り絞った声を発した。
「えっと、まっまあ……聞くぐらいなら、別に良い……けど」
俺の戸惑いながらの返事を聞いた彼女は意を決したような表情をつくり、唇を震わせながらスカートのチャックをジジィっとおろした。シュルルとスカートが足もとに落ちた。
「なっななっ何してんの!?那珂詩歌さんっどうしたの!?」
動揺した俺は咄嗟に両手で目を隠しながら訊いた。
その間もセーラー服を脱いでいる衣擦れの音だけが室内にした。
室内が無音になり、恐る恐る両手を顔から離し、彼女を見ると裸の彼女が恥ずかしがる様子も見せずに立っていた。
すぐに視線を俺の足もとに落とし、再び訊ねた。
「ななっ何してんの?那珂詩歌さん、どうしてこんなこと……とにかく、なんか着てよ……」
「……んで、鴻汰くんが恥ずかしがってるの?」
何故か、彼女の声は震えていなかった。
異性に裸を晒しているというのに、彼女が発した声は微塵も震えていなかった。
「いいからっっなんか着てよっっ!お願いだからぁっ!」
俺の懇願を無言で否定した彼女が俺に近づいてきて、そっと両腕を俺の背中に回し、耳もとで艶かしく吐息と共に囁いた。
「——」
身体がゾワゾワと感じた瞬間に全身が震え始めた。
※※※
「はぁはぁっ……」
目を覚まし、視界に映る天井が自室のそれだったことで安堵した。
息は荒く、身体から汗が噴き出していた。
夢か……なんで那珂詩歌が出て、それにあの日の……
那珂詩歌が両腕を回したときに触れた彼女の身体の感触を鮮明に思い起こされた。
さ、最悪だ……なんで、夢で……
忘れよう、忘れたい……あの日の全てを忘れ去りたい。
あんなトラウマに囚われ続けなきゃいけないのか……寝ている間も。
忘れたい記憶は、都合よく消え去ってはくれないものだな……ほんと。
スマホを手に取り、時刻を確認すると昼前になっていた。三時間ほど寝ていたのか、そう呟いてベッドをおり、自室を出て、浴室へと急いだ。
シャワーで汗を洗い流し、自室に戻ったが寝付けず、スマホを弄って時間を潰した。




