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番外編—唯一気になること

一日がオフだった平日——夏休みも後半の8月中旬の昼下がりに唐突な呼び出しを受けた正面に座る女子は苛立ちを隠すことなく、ストローを咥え、ズズッと音をたてアイスカフェオレを啜る。


カランと氷がガラスのカップに当たり、音をたてた。


「ごめん……」

「——でどうすんの?」

「……っ」


トントンとひとさし指でテーブルを叩く彼女——柊風香が纏った威圧に怯み声が出さずにいた。

「ごっごめん!暑さで我を失ってた……探るの?」

身体を小刻みに震わした私に気付いた彼女が慌てて手を合わせ謝り、訊いてきた。

「あっ、わ、私こそごめん。気に触るような態度——」

「いやいやっ、紅莉が謝ることなんて!ごめんって」


——10分も謝り続けた2人だった。


「良いじゃん、うちんとこみたいに亀裂が入ってないんだしさ。うちからしたらめっちゃ羨ましいって思う親だよ。たかだか一日家を空けるくらいで大袈裟だって、紅莉は」

「私が小学生に上がった頃くらいから毎年だよ。気になるし、もしかしたらって思っちゃうと——」

「紅莉は紅莉のおじさんが傷付けるようなことするって本気(マジ)で思ってんの?」

「そんなことっ!もしかしたらって……」

思わずテーブルを叩きつけ、立ち上がり否定しようとして、途中まで言いかけ声を抑えて、全身の力が抜けてストンと椅子に引き寄せられた感覚に襲われ、沈んだ。


「付き合うよ、付き合ったら満足して帰るんだね?約束するんなら顔上げて」

「……あ、ありがとう。風香ちゃん」


私らは、テーブルに並んだ軽食を平らげた。

椅子から立ちあがろうとした私の前に風香が手を差し出した。

私は差し出された彼女の手を取り、立ち上がり微笑んだ。


カフェを後にし、見慣れた中年の男性の後をつける女子高生ふたりだった。


なんだかんだ付き合ってくれる隣の親友の横顔を見つめた私に、微笑んでから、コラっよそ見しない、と叱った親友。


胸の内で、彼女に向けて——ありがとう、と呟いた。



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