思ってたより、怖くなかった
12月に入り、クリスマスが差し迫ったある休日に涼更くんを自宅に招き、ある計画を始めようとしていた私だった。
前日の金曜日に彼が来ることを姉に告げると思惑通りに、気を緩ませ、涼更くんのことにしか頭にないようだった。
姉の柚羽は、部屋を出るときに必ず扉の鍵を閉めていく。
意外と他人を部屋に上がらせないように施錠する用心深さもある。
普段はズボラな姿を見せるが、プライベートな自室に限っては用心深い姉だ。
インターフォンが鳴るや否、玄関に向かって駆け出す姉に呆れてため息が漏れる。
「お邪魔しまぁ──ってぇ、柚羽さん息苦じぃーっ......」
「涼更くん涼更くん涼更くぅ~んっっ、遅すぎて待ちくたびれたよぅ~~んっっ!ねぇねぇ、涼更くんってばぁ~」
玄関では涼更くんを窒息させる勢いで抱き締め続ける姉と、今にも死にそうな掠れた声をあげる彼がいる。
彼が来る度に繰り広げられるお馴染みの展開──光景に、申し訳なさで一杯だよ......私。
彼に姉の相手をしてもらっている間に、姉の部屋に入り、彼女の友人である女性の名前をスマホから見つけ出し、連絡する私。
3コールで通話が繋がり、綴雨葉琥珀の声が流れた。
『もしもしぃ~ユズちゃん。もう機嫌直してくれたんだぁ、早いねぇ......』
「......」
『......おぉーいぃっ。ユズちゃん?あれっ?機嫌直ったから掛けてきてくれたんじゃ......ユズちゃんだよね?ねぇっ、黙ってないで何か言って!』
「......っ!ああっとぉ、かかっ香ですぅっ!妹の香です、いきなりすみませんっ......」
『妹さん?......ああぁ~夏に会ったね、そう言えば。どうしたのかな?妹さん』
記憶力すごい、この人。
「覚えてくれてたんですか?......ウハ、さん。すみませんっ!」
『綴雨葉っていうの。分かりづらいよねぇ~!もしかして、ユズちゃんのこと?そうなるとぉ~暴走してるユズちゃんをどうしたら制御──大人しくさせれるかって辺りかな?』
「まあ、はい......柚羽姉をクリスマスの25日に家から遠ざけたいと思ってまし──」
『うまくいくかは保証できないけど、どうにかしてみるよ。香ちゃんの連絡先を教えてくれないかな?』
「ありがとうございますっ!──です」
『──うんっ。じゃあ、近いうちに詳しく練ろうね。バイバイ、香ちゃん』
返事を返す前にプツッと通話が切れる。
あのときみたいな怖い感じじゃなくて、安堵した私だった。
階段を降りていると、リビングから涼更くんの死にそうな呻き声が漏れ聞こえてきた。
ありがとう、涼更くん......クリスマスのパーティーはうまくいきそうだよ。




