嗅覚が優れているのだと驚く
翌日の午前8時20分に那珂詩歌家を出て、帰宅した俺を迎えたのは、よれよれのスウェットをはだけたままで毛布をかけてすぴぃすぴぃと寝息をたて寝ている姉だった。
だらしなく、よだれを垂らしていた姉。
はぁ......こいつは。姉の寝顔を見ていると、一発蹴りを入れたくなった。
母親の靴が玄関にあったので、騒ぎ出す姉の声を聞きつけ、怪我を負わされることになるのは目に見えているので諦めた。
足音をたてないように階段を上がり、自室に歩を進めた。
那珂詩歌の母親に洗濯はしてもらったが、洗濯機の横に置いてある洗濯かごに放り込んでおいた方が無駄に詮索されないだろう。
そう思い、着ていたパーカーやジーンズを脱いでからベッドの上に脱ぎ散らかしてあったルームウェアに着替えて、洗濯かごに脱いだ服を放り込んで自室に戻った。
ベッドに腰をおろしたと同時にスマホが着信を告げた。
通話に出ると、星峰さんの寝起きの声が聴こえてきた。
「おはぁ~ようぅ......遊びに行っても良い?」
「おはよう。良いけど、居るよ......しつこい奴」
「まあ、我慢するからいいよぅー。昨日って家にずっといたぁ?」
「うっうん、居たよ。それがどうしたの?」
「うぅーん......もう少ししたら家を出て、お邪魔するねぇー」
返事をする前に通話を切られた。
時々欠伸混じりのふにゃふにゃした覚醒していない声だった。
午前10時過ぎにインターフォンが鳴り、玄関扉を開けると星峰さんがいた。
「お邪魔しまぁ......って、いつもの匂いじゃないっ。やっぱり違う......」
俺が出迎えると同時に鼻を近付け、クンクンと匂いを確認して、ぶつぶつと呟きだした彼女。
「あの娘......のじゃない、違う。嗅いだことのない匂い......いや、そうじゃない?先輩のとは全然違う......」
「どっ......どうし、たの?ぶつぶつ言って」
「昨日、家にずっといたって言ったよね?」
「う、うん。そうだけど......」
「誰かの家に泊まってたでしょ?隠しきれてないよ、表情に出てる。怒ってないよ、泊まったことに関しては、ねっ。隠そうと嘘をついたのはいただけないって思ってる」
「ご、ごめんなさい......嘘が下手だけど、それだけで疑ったんじゃないよね」
「髪からもだし、柔軟剤の匂いが違って明らかにおかしかった」
「柔軟剤......でも着替えたし」
「それほど時間って経ってないよね?服を脱いだのって」
「分かるものかな、そこまで。鼻が利くんだね、すごいよ」
「私を侮るなんて酷いよ。このくらい、普通だよ」
自室で、彼女に包み隠さず昨日のことを打ち明けた。




