あいつに構ってられないのに
帰宅した俺は直行で自室に向かって、ベッドに倒れ込むように身体を沈め、目を伏せ思考を巡らせた。
問題は山積みで、手をつけようにも手遅れ感が否めない問題ばかりで頭を悩ませられている。
これ以上、他人が抱える問題についてあれこれ思考するとパンクする。
昼休みに出くわした那珂詩歌の表情が脳内をちらついており、落ち着かない。
去年までの那珂詩歌が見せた表情が思い出される。
***
中学三年間、彼女とはクラスが同じになることはなかった。しかし、彼女の自宅に何度か訪れたことがある。何度かというのは正確さにかける──二週間に四日は招かれていたかという頻度で自宅にお邪魔した。
人前では見せない、俺の前でだけみせる表情に気が気でない俺だったことを明言しよう。
当時は今よりも髪をのばし、前髪で目もとを隠した暗めな印象を植え付ける彼女だった。
篤生と話している俺を見掛けた彼女が、接触をはかって篤生との距離を縮めようと協力を仰いできたのをきっかけに──となっていった。
誘惑すればなんでも頼みをきいてくれると勘違いしていた彼女は、二人だけの密室にてあんなことやこんなことを実行に移した。
内容については多くは語らないが、まあ......俺ではない男子では誘惑にまけ、そのまま──なんてことも起こりえたかもしれないことは恥ずかしげもなく仕掛けてきた彼女。
生きた心地を感じられない空間だった......アレは。
俺は彼女の背中を一押ししたが、結局うまくはいかなかった。
***
彼女にとっての篤生がどういう存在かも聞かされており、進展のなさがまさにビターな味の青春と感じさせる。
那珂詩歌には構ってられないのに......




